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僕と彼女の物語

作者: 楽園

 サッカー部所属の高校二年、山下裕二は屋上で、その光景を見た瞬間、時が止まったように感じた。


 同級生の斉藤佳奈と柳田隼人がキスをしていた。隼人の唇が佳奈の唇に触れた。ふたりの唇が重なったままの時間が永遠に続くと感じた。


 佳奈は幼馴染だった。肩までのショートロング。二重が目立つ大きな瞳。笑うと天使のように可愛いかった。


 佳奈との出会いは小学校一年の夏、佳奈が男の子から虐められてるのを助けた。佳奈はそれ以降、中学に入るまで裕二と一緒に行動した。 


 中学三年―女の子を意識する年になると佳奈の容姿のせいで人気になった。今まで話したこともない男子に話しかけられ、何度も紹介しろとうるさかった。


 高校になると佳奈のロッカーには数日に一度くらいの頻度でラブレターが放り込まれた。何処どこで待っていると言う一方的な内容だった。毎回、放置するために、揉めることも多かった。その度に裕二が助けに行った。

「なんで、会いに行かねえんだよ」

「だって断るの面倒だから」

「裕二だって会いに行ったら嫌でしょう」


 佳奈は裕二の気持ちがわかっていると思っていた。


 屋上に上がってきた理由は、目の前で今キスをしている佳奈だった。佳奈から昼休みに放課後、屋上に来て欲しいと告げられたのだ。


 だから俺は少しだけ期待していた。可愛い佳奈と学内公認の仲になる。思春期を過ぎた頃から何度も思い描いてたことだった。

 

 まさか、ふたりのキスシーンを見せられるとは思ってもいなかった。


 裕二は目の前の光景に我を忘れて呆然としていたが、おかれている状況を気づいて思わず後ずさる。


 足音に気づいたのか、佳奈が目を離してこちらをみた。


「裕ちゃん!!」

 佳奈は昔のあだ名を口にする。

「違う、違うの!!」

 焦って取り繕おうとする。

「ごめん、見るつもりはなかったんだ」

「だから、これは違うの」

「ごめんな、佳奈」

 キスの光景が頭にこびりついて離れなかった。


 なんだよ、佳奈。

 お前、俺のこと好きじゃなかったのかよ。

 相思相愛だと思って浮かれていたのは俺だけだったのかよ。

 俺は駆け出した。


「裕二くん!!」

 ふたたび後ろから声がした。佳奈が追ってくるのが聞こえた。何をこれ以上言う必要があるんだよ。言い訳か。そんなもの、こっちから願い下げだ。


 悔しかった。なんで呼び出したんだよ。

 からかいたかったのかよ。


 携帯の着信音が鳴った。着信拒否にした。 

 メールが届いた。メール拒否にした。

 ラインが鳴った。ラインを拒否した。


 佳奈が好きすぎて、目の前の光景がどうしても許せなかった。佳奈が許せなかった。


 家に帰って暫くするとインターフォンが鳴った。母親が何度か話をして、母親が二階に上がってくる。会うのを拒否してみたが、とにかく会えの一点張りだった。会っても仕方がないんだけどな。


「ごめんなさい」

 玄関から出たら、佳奈が深々とお辞儀をしていた。今更謝られても、佳奈のキスシーン見せられて笑いですんだら、そもそもここまで拗らせてないわけで。

 

「気にしてないと言えば嘘になるけど、もういいよ」

 正直どうでもいいと思ってた。佳奈に特定の男子ができたのであれば、幼馴染としては喜ぶべきことなのかもしれない。だけど、俺はそんなこと絶対するか。


「やっぱり勘違いしてる。あれ見られたから仕方ないけども」

 勘違いなわけないだろ。少なくとも日本人である限りは、キスは恋人同士でしか行わない。


「いや、言い訳はもういいですよ」

 キスを見せたすぐ後だったので、謝罪かと思った。しかしそうではなかった。目の前の佳奈は、キスのことを無かったことにするつもりなのだろうか。

 流石にそれは無理がある。


「言い訳はもういいですか」

「ちょ、ちょっと待って」

 言い訳なら聞き飽きたので、帰りたいと思った。

「無ければ帰るけど」

 

 俺は家に向かって歩こうとした。

 その瞬間、佳奈はとても考えられない行動をした。

 佳奈が俺の身体に抱きつき、そのまま唇を奪った。


「いや、裕二くんに嫌われるくらいなら」

「誤解されるくらいなら……」

 俺の身体に捕まり泣いた。


 嫉妬から失われていた冷静さが蘇ってきた。

 合理的に考えると結論が見えてきた。今の佳奈の話の流れと今までの行動。全てを総合するとそれしか考えられなかった。


「もしかして、隼人に無理やりキスされたのか」

「信じてくれます」

 大きく頷き、しっかりと俺を見つめる。この目は間違いなかった。

 俺は一番、重要なことを失念していた。キスは別に無理矢理でもできてしまう。

 佳奈が突然恋をするわけはない。俺に何の相談もなしにそいつとキスをするなんてあり得なかった。


 結局、佳奈を信じられなかった俺が一番許せなかった。

 それと、俺がもっと本心を伝えていればこうはならなかった。俺が引き伸ばし続けた結果だった。

 だから、俺は初めて口にした。


「俺は、世界で一番、佳奈が好きだ」

「わたしも、世界で一番、裕二が好き」

 涙でぼろぼろになった顔を拭う。ごめんな、こんな簡単なことを後回しにし続けて。

 両手で手を回し、口づけをした。


「ごめん、ファーストキス奪われて」

「ううん、これが佳奈と俺とのファーストキスだよ」

「想いのないキスはキスとは言わないから」


 この後、佳奈を送って家に帰った俺に待っていたのは、母親の興味しかない尋問だった。


 てか、うぜえ。やる場所間違えた。冷静になれなかったことを心底悔いた。


 こうして俺と佳奈は、学内公認どころか家族公認の仲になつた。


―――


ショートショートです。


見ていただいてありがとうございました。

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