ジュニアとお母さん
私が疲れて寝込んでいたとき、ジュニアは母馬にして私の妻カグヤドリームからお乳をもらっていた。
規格外の子供であるが、母親からきちんと乳を貰っているところを見ると、やはり仔馬なんだと安心できる。
少しだけ私の気分が落ち着いたとき、ジュニアは言った。
「母さん」
「なあに?」
「乳離れの日が近づいてるね」
「他人事のように言ってるけど、乳離れってなにかわかるの?」
「乳離れとは、仔を母から引き離して、競走馬としての自立を促すための牧場の一大行事」
カグヤドリームと目が合ってしまった。やはりこの仔馬は普通ではない。
「……」
「……」
ジュニアは淡々と説明を続けた。
「仔は母から引き離されることを嫌がり、泣き叫ぶことが多く……母も応えようと声を上げるため、牧場中が異様な雰囲気に包まれる」
そこまで言うと、ジュニアは笑った。
「だけど、小生は泣かないよ」
我が仔ながらかっこいいと思ってしまった。齢10を超える牡馬がそう思うのだから、カグヤドリームはそれ以上に誇らしいだろう。
「お母さんの新しい部屋は、おおよそ見当がついてるからね」
先回りでもするつもりか!
カグヤドリームはにっこりと笑うと、ジュニアのたてがみや体を舐めた。
「立派になりましたね。貴方なら……お父さんとお母さんの夢だけでなく、様々な人たちの夢を乗せて走ることができます」
「そんな、それは買いかぶりだよ」
そう言いながらもジュニアは照れくさそうだ。これは……期待していいか?
「でもまあ、色々な人の夢と希望と……そして笑いを運びたいな」
最後の笑いってなんだ! 微笑みと言いなさい、ほほえみとっ!!
カグヤドリームは微笑んだまま言った。
「ジュニア、私は……オークスに出られませんでした」
唐突な彼女の言葉にジュニアはきょとんとしていた。ちなみにオークスとは、牝馬にとって出場するだけでも名誉な大会だ。
「だけど、諦めずに……ずっと頑張ってきたからこそ、今があります」
ジュニアは頷いた。
「わかっているよ。お母さんは次に負ければ引退という大会でも諦めずに挑み、最後はダートの女王になった」
その通りだジュニア。我が妻カグヤドリームは栄えあるG1馬。
チャンピオンズカップの優勝馬の血がお前にも流れている。
カグヤドリームはにっこりと笑っていた。
「ですから、自分の体に気を付けて……いつでも万全の態勢で挑めるように努力を怠ってはなりませんよ」
「わかっているよ。スタッフたちにもそう指示しておく」
お前が言うと怖いわ!
「あと……お母さん?」
おや、何やらジュニアが物欲しそうな顔をしている。どうしたのだろう?
「なんですか?」
「最後まで見捨てないであげてね……お父さんのこと」
「」
【ドドドドドドドドドからの挨拶】
皆さま、ジュニアの父馬ドドドドドドドドドです。
是非、長女にはオークス、長男にはダービーを制して欲しいと切に願っています。
そんな子供たちの将来に一喜一憂する私を励ますことと共に……
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では、次回以降も張り切っていきたいと思います!