真実の愛に目覚めたと言う王子に婚約破棄を告げられた令嬢。王子の横に追加でソッと番(ツガイ)を置いてみた
誤字脱字報告等ありがとう御座います。感謝申し上げます。
「ソフィア。お前との婚約を破棄する!? 新たにシャーロットを婚約者とし、未来の王妃にする事を宣言する!! お前が妹のシャーロットを虐め抜いた事は知ってるんだぞ……可哀想にシャーロット。こんなに震えて怖かっただろう」
「オーガスト様……私怖くて」
いや、よく見て。その異母妹の顔をちゃんと見て。おかしくて震えて笑っているだけだから。涙を浮かべてるのは更に可笑しくて仕方がないって事よ。
これだから恋愛脳のフィルターにかかって物事どころか、至近距離でさえ本質をも見えていないバカップルは。特にオーガスト王子。
皆んなドン引き。こんな他国の要人複数を交えた夜会の最中に、何故か婚約破棄を言い渡す常識のなさに……我が国の恥を晒されて、ウンザリ顔だ。
しーんと静まり返った夜会会場。ヒソヒソ話すら出来る空気でもない。
「とうとうやりやがったな、あの2人!」って自国の貴族達は揃って顔に書いてある。元々噂の絶えないお二人だから。
他国人は困り顔。どうしていいのか分からないご様子。大変申し訳ない、ウチの王子がすみません。
「未来の王妃に」とか言ってるけど、王様になる予定もない第3王子が調子こいてすみません。だからヤダって言ったのに、こんなお荷物(オーガスト王子)を引き取るような婚約。
因みに出席されていた王太子殿下は先程から王族席で頭を抱えていらっしゃるわ。今日お誕生日なのに本当可哀想。
マジもんの未来の王妃コト、王太子妃殿下は隣の王太子殿下をお慰めしている。
うん、政略とは言えアソコは何があっても絆は固い。
会場真ん中に陣取ってこれ見よがしに異母妹のシャーロットの腰に手を回して、私に宣言したオーガスト王子は何を隠そう私の婚約者。凄く恥ずかしいです。
オーガスト王子は私のエスコート役も務めず、異母妹のシャーロットを最初から連れて会場に入場。お父様と王様がいないのをいい事にやりたい放題ね。
それでも、恥を忍んで単身乗り込んで来たのには訳がある。
元々、今日婚約破棄されそうなのは知っていた。
気合いの入ったいつもより更にゴテゴテのドレスを私の婚約者から贈られたと、嬉しそうに見せて来た異母妹のシャーロット。
オーガスト王子の方もエスコートしないが、夜会には出席しろと理不尽な事まで態々本人が直接言いに来たんだから何か無い方が変である。
極力私と会いたくないと常日頃から言ってるゲス……ゴホン。婚約者がだ。
別室に行くのかと思ったら、こんな公衆の面前で言われるとは思っても見なかった。そこまで脳内お花畑になったのね〜(遠い目)。
「ソフィア! 返事は?」
「婚約破棄、謹んでお受け致します」
おっといけない。私が考え事をしていたら、再度婚約を破棄する件を惚気も交えながら……真実の愛に目覚めたと言う2人の馴れ初めとかいらない。ただの浮気の告白以外の何ものでもない。
ちなみに私がイジメをしたと言うが、その内容は私の装飾品やドレスに小物などなど異母妹のシャーロットに潔く渡さなかったとか何とか。
いや、それはお父様から頂いたお小遣いを使い切って、私の物まで取ろうとするシャーロットが悪いだろう。流石に会場にざわめきが戻って来た。
とりあえず、おざなりにならない程度に返事をしてメイドに合図を送る。
頷いたメイドは「心得ました!」と、言わんばかりに、元婚約者となったオーガスト王子の隣にとある人物をソッと置いた。
先に仕掛けた方はオーガスト王子と異母妹。別室で穏便に済ませようと思ったけど、そっちがこんな場所でやらかすなら私だって黙っちゃいない。
大丈夫、コレは善意だから。行き着く先は『獣人』にとっては幸せな事だよ。異母妹よ(悪い笑顔)。
流石に不審に思ったシャーロットがそちらを見る。
異母妹の方ばかりに気を取られていたオーガスト王子だが、真実の愛をもってしてもその人物を無視出来なかった様だ。鼻をヒクつかせたと思ったら、ガバリと勢い良く己の隣を見た。
「『番』……」
「え? オーガスト様……の…………番?」
『番 (ツガイ)』。世界の何処かに必ず1人はいると言う『運命の相手』。
この国は獣人の国。
番に巡り合えるのは正に獣人の人生最大級の幸運だ。
お相手を見つけ出すのは苦労したわ。
人の国に紛れて、3国隣の孤児院の片隅にひっそりと暮らしていたそのオーガスト王子のお相手を探し出すのに、どれだけ苦労した事か。
「うぉわぁわあぉぁぁぁぁっ!? ツガイツガイツガイツガイツガイツガイ!! 愛して……ぶへっ!」
「変態。触らないで」
シャーロットを投げ捨てたと思ったら、オーガスト王子はそのまま番に抱き着こうとして、足払いを受けて、腹を足蹴にされている。
運命のお相手『ベルちゃん』。数え年で12歳。我が家のメイド服を着たピッチピチの人族である。因みにオーガスト王子とは24歳差。
YESロリータNOタッチ。
「そ、そんな……ツガイよ! 私の運命!? 結婚してくれ今直ぐにっ!」
「嫌……無理。私のご主人様に酷い事しといて、良くもぬけぬけと……」
劣悪な環境下の孤児院にいたベルちゃん。私にお持ち帰りされたのだ。
拾った時は6歳。メイドのお仕事は勿論、私に忠誠心厚い幼女は他にも素質があるとかで家の者に色々仕込まれた。作法に裁縫、体術に……暗部のお仕事まで本当色々。
獣人は番のフェロモンによって運命のお相手を見つけ出すが、かなり近くに寄らないと分からない人もいるらしい。王子もそれだ。花粉症なのもあるが、元々あまり鼻が利かないと言っていた。
しかし、人族に至ってはそれも皆無。人族には獣人の運命の相手なんて、ん? 何それ美味しいの? ストーカーか迷惑なヤンデレの間違いでしょ? ってな具合である。
一応人族の方も相性はいいらしいが、私の護衛中(暗部の方)にオーガスト王子の酷い態度を見てしまっているベルちゃんにとっては、恋愛対象どころか浮気野郎として人として接する事も難しいと言われたよ。ハイライトの消えた瞳に満面の笑み……凄く怖かったとだけ言っておく。
日頃の行いは気をつけないと。何処に目と耳と鼻とがあるか分からないから。
「オ、オーガスト様!? そんな……あんまりだわ…………あんなに愛してるって……」
「黙れ! 耳が汚れる! 番……私の番。もっとその可愛らしい声を聞かせておくれ。結婚しよう!! ……ぐっ!?」
「黙って。」
床に転がされたオーガスト王子に縋り付く異母妹に更にオーガスト王子を未だにグリグリと足蹴にしてる我が家のメイドのベルちゃん。
収拾がつかなくなったところで、流石に王太子殿下が口を開いた。
「ソフィア嬢。愚弟のしでかしについて別室にて私も詳しく話を聞きたいが……」
「いえ、本日の主役にご足労頂くなどとんでもないことでございます王太子殿下。コチラで処理致しますので」
「……騎士団長行ってくれないか?」
「承知しました。王太子殿下に代わり、処理して参ります」
「2人共、頼むから穏便にな? 王がお戻りになるまで命までは取らないでもらいたい」
「「御意」」
騎士団長は第2王子だ。側室の子どもで、婚約者共々既に公爵家として家臣に下る事が内々に決まっているが、未だにご正室の子どもである第3王子のオーガスト王子が結婚しないので先延ばしになっている。色々体面とかあるらしい。
王太子殿下には王太子妃殿下との間に息子2人に娘1人。継承権のある3人の子宝に恵まれて地位は盤石。
問題児である第3王子を我が家の入り婿として押し付ければ話が上手く行ったのに、こんな事態になってしまって。ごめんあそばせ。
しかし、結婚前から浮気するような男は我が家もと言うか私が耐えられない。
そして、異母妹のシャーロットも。入り婿のお父様や何かと私を目の敵にして来る義母にもだ。
我が家は北の守りを任された辺境伯。
お母様亡き今、あの厳しく寒い土地に贅沢な事をする輩は1人たりともいらない。
そして、素行に問題のある第3王子を無理やり押し付けた王家にも、それを勝手に容認したお父様も私は許さないからね。
未だにベルちゃんに足蹴にされて、ちょっと嬉しそうにしているオーガスト王子。
ベルちゃんがまるでゴミ虫を見るような目で「キモ……」と、言っているが「ああ! その冷たい眼差しイイッ!」と恍惚とした表情で、運命どころか真実の愛じゃない何かに目覚めたご様子。
流石にこのままじゃベルちゃんの方が可哀想なので、コッチにおいでと手招きすると秒で駆け寄ってきた。よしよし、頑張ったね。
王族の醜聞。今回は大勢の目があるので流石に揉み消すことは出来ないでしょう。少々予定と違ったけど、王家に想定以上のダメージを負わせられたのは良かった。
ベルちゃん、身を犠牲にしてまでありがとう。お家帰ったらベルちゃん好物のシフォンケーキを一緒に焼いて食べようね。
何かに目覚めてしまったオーガスト王子は腰が抜けたらしく……軟弱。騎士団長に担がれて別室へ。え? 異母妹のシャーロット? ははは。会場に放置だよ放置。
辺境伯の血は1滴も入っていないから、強いて言えばお父様の生家が恥ずかしい思いしたかな。
母の喪も明けない内に、同い年で2ヶ月違いの異母妹と義理母を家に連れてきたお父様が悪い。
届け出ではそうなっているけど……調べによるとアチラの方が数ヶ月歳上だしね。
別室に到着後、婚約破棄はもちろん。
過失はオーガスト王子にあるとして賠償金の支払いと、ベルちゃんの引き渡しを言われたので丁寧にお断りしといた。
「まだ小さい子ですから。辺境伯家にて大事に育てて行きたいと思います。今回を機に私の縁談は傷物として碌な方は望めないでしょうから、従兄に家督は譲りたいと思います」
「そんなっ!? お待ち下さいソフィア嬢。それでは……貴女はどうなさるおつもりで?」
「私も自分の真実でも運命でも探して参りますわ。王子の処遇も何もかもそちらにお任せします。3日前に私もやっと成人を済ませましたので、辺境に戻って亡き母……前任の辺境伯の相続や家督について従兄と手続き致しますので、王家の方でくれぐれも承認の方宜しくお願い致しますわ。では、ご機嫌よう。ベルちゃん帰りましょう」
「はい、ご主人様♪」
「番ッ!? 行かないでくれ!! ツガイ! つがいぃぃいぃぃぃぃっっっ!!!!」
「オーガスト! ヤメロ。気持ちは分かるがこれ以上は駄目だっ……諦めろ!」
「うわぁぁあぁぁぁぁ! もっとその脚で踏んでぇぇえぇぇぇ!!!!」
色々破廉恥な事を叫び続けているオーガスト王子の言葉を遮るためにベルちゃんの耳を塞ぎながら、私は王宮を後にした。
死んでもいいから、ひと目でも運命の相手に会うことが獣人の喜び。オーガスト王子はきっと幸せでしょう。獣人にとっては。
まぁ、その先は私の知った事じゃないわ。
元々婿入り先なども危ぶまれて、何度も真実の愛を見つけては婚約破談にしていた方ですもの。あの状態では他の令嬢に見向きもしないで、きっと一生結婚は見込めないわね。王家が責任を持って世話して欲しいわ。
ベルちゃん成人までまだ8年ありますもの。きっと向こうが番に狂って身体が耐えられないでしょうね。
それからは、お父様は義母とシャーロットを連れて辺境伯家を追いやられた。手切金はない。
シャーロットの生まれが私より半年早かった事が露見。
辺境伯であるお母様と結婚の際に交わした契約に反すると言う事。
又、私が成人するまで代理の辺境伯として仕事をこなしていたが、散財もしていた事もあり微々たる相続も相殺されてなしに。
多少の荷物を持って3人仲良く辺境伯の馬車に揺られて生家に輸送された。お父様の事は生家にお任せしたい。
シャーロットは私が成人したら家を追い出されると思って、オーガスト王子に言い寄ったらしい。お父様は一応止めてはいたが、義母似のシャーロットには甘いから。
最終的にちゃんとオーガスト王子を愛していたらしいシャーロット。
私の事を「泥棒猫!」と罵っていたけど……自分の行いのことを棚に上げて酷い言われ様だと呆れた。
一生辺境伯の領地内に足を踏み入れる事は許さないと契約書を交わしてあるので、みんな顔を見る事はない。
その後、私は自分の運命の相手を探しに旅に出た。
私の家は代々『運命が見える』と言う特殊な家系で、獣人の国には重宝されていた。
過去形にしてやった。何せもう私しかその能力を受け継ぐ者はいないし。既に国を出た私には関係ないよ。
元々意識すると視認化出来る、人に繋がっている糸を辿るようにして私の場合は探す。コレがまた大変なんだ。糸にとっては人の作った道とか関係ないから。
ベルちゃんの時は細々として、色もついてなくて大変だったなぁ。多分、ベルちゃんが人族だったのも関係しているんだろう。元々縁が薄かったんだな。
元を辿っていたお相手のオーガスト王子は生涯離宮に幽閉。
「楽には死なせません♪」と言ったベルちゃんは、定期的にオーガスト王子の元に行っていくばくか顔を見せて多少活力与えて無言で帰って来るらしい。
生きているって事は番を求める身を焦がすような期間が長くなって地味に辛い仕打ちである。
因みにオーガスト王子は何かを必死に訴えて来るらしいが、耳栓をしたベルちゃんはスルー。ウチの子の忠義心が、分厚過ぎる件。
元々は王家の番探しに使われてた我が一族だが、祖先は自分達で探してたって言うから是非とも今後は自力で頑張って欲しい。
番を手に入れるのが当たり前になり、手に入れる苦労や有り難みもなくなり、あんな王家の恥のオーガスト王子なんて甘ちゃんを生み出して……更に引き取り手がないからと辺境伯と王家の絆を深めるためになーんて言い訳で押し付けようとしたのは許さない。
元々は王様が撒いた種だ。王妃と言う番が居るにも関わらずに、普通の側室をお迎えする羽目になって。側室が妊娠してたんだと。
そりゃ、生まれた第2王子もさぞかし肩身の狭い思いをしていただろう。
お陰で王妃様に頭が上がらなくなった王様は、甘やかされて育った第3王子のやらかしに火消しをして回る羽目に。自業自得だと思います! 我が家を巻き込まないでいただきたい。
まぁ、アチラはベルちゃんと従兄に任せよう。問題は私に巻き付いてるこの縄だ。
そう、私のは糸じゃなくて主張が激しい縄なんですよ。
しかも、赤とかピンクとか可愛らしいのじゃなくてドス黒い色をしていらっしゃる。きっと、よっぽど強い運命で繋がっている番なんだね。笑うしかない。
縄は海の先。本当道を選ばないどころか、道すらないよね。頑張れ私。運命までの道のりは遥か海の彼方だけ……ど…………え?
突風が吹いたと思ったら、そこに私の運命が。
「グガァオォォォォォォォォォォッ!!」
ド ラ ゴ ン だ と ?
あ、違った。縄はドラゴンの背のその先。
ドラゴンに乗ってる…………コレが私の運命の番か。
「やあ、俺の『運命』の仔猫ちゃん。結婚しよう」
「えぇ、喜んで」
END
オーガスト王子
真実の愛に目覚め(複数)
↓
運命の相手に巡り合い
↓
変態に覚醒
オーガスト「罵って! ベルたん今日こそは罵って!」
ベル「………」(無)
護衛「王子お時間です」(死んだ魚の目)
オーガスト「あぁっ! 待ってベルたぁぁぁん。ツレない態度も最高だけど、お話ししてぇえぇぇぇッ!」(号泣)
お読みいただきありがとうございました。