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22. 元執事、ラスボスに挑む

「ここが六階層か」


 六階層も四階層と同じ洞窟のような見た目だった。

 だが、一つ違うとすれば……


「何もいない?」

「ワンッ?」


 そう、見渡す限りどこにも魔物がいないのだ。

 だが、リリアナが首を振る。


「いいえ、そろそろ現れるはず……」


 ドシンッ、ドシンッ。


 リリアナの語尾は大きな音と強い振動にかき消された。

 そして現れたのは……


「っ……!」

赤竜(レッドドラゴン)……」


 赤い胴体に、紅翼、赤い眼を持つ巨大なドラゴンだった。

 動くだけで床が揺れる。


「そう、ここはSランク冒険者がパーティで挑む階層ね」


 リリアナが微笑む。


「階層全体がボス部屋になっていて、今回のボスはSSランクの赤竜みたいね。まだ今なら戻れるけど……」

「いや、戻らない」


 俺は被せるように即答する。それに……


「あの赤竜何かがおかしい」

「え?」

「ワンッ」


 赤竜の周りには黒い靄がうっすらとかかっていて、何か禍々しいものを感じる。


「ごめんなさい、私にはわからないわ」

「そうか……」


 リリアナの申し訳なさそうな表情に首を横に振る。大した違いではないからわからなくてもしょうがない。と。


「グルゥゥゥゥゥゥゥウ」

「ハク?」


 大きく唸るハク。俺が感じた違和感を感じているのか……?


 ハクの声に赤竜がこちらを向く。その目も濁っているように感じるのだが……

 俺の思考はそこで途切れた。なぜなら、


「避けろっ!」

「ワンッ」


 ハクの唸り声に赤竜が火を吹いてきたからだ。


「手荒い歓迎だな」


 真上に飛んだ俺めがけて尻尾が飛んでくる。

 リリアナが叫ぶ。


「赤竜の尻尾は……!」

「自由自在に動き、猛毒がある、だろ! 〈飛翔〉〈氷柱(ひょうちゅう)〉」


 現れた氷の柱が尻尾を地面に串刺しにする。


 リリアナが唖然としているのを視界の端で捉える。

 赤竜のことは知っている。本で学んだからな。


『執事は常に主人の質問に答えられなければなりません』


 急に浮かぶあの人の言葉。あの人の言葉で俺は知識を欲するようになった


 ギリッ。


 奥歯を噛み締めて記憶を押さえつける。


「今は過去を思い出している場合じゃないな」


 呟くとそのまま魔法式を大量に展開する。


「〈破砕〉〈雷撃〉」

「ギアアァァァァァァァァァァアア!!」


 降り注ぐ魔法に赤竜がのたうちまわる。だが尻尾が押さえつけられてて動く事ができない。


「グルゥゥゥゥゥゥ!」

「グギャァァァァァア!」


 そこをハクが思いっきり噛む。悲鳴をあげる赤竜。


「リリアナ!」

「わかってるわよ! 剣技〈絶斬(ぜつざん)〉!」


 赤竜の背後に回っていたリリアナが凄まじい速度で剣を閃かせた。

 それは赤竜の固い鱗を切り裂き、赤竜は脇腹から血が噴き出しながら倒れ込んだ。


「ギャァァァァァァァァァァア!」

「最初に感じた違和感は気のせいだったのか……?」


 倒れこみジタバタともがいている赤竜を見て首をかしげる。


「だが、どちらにせよこれで終わりだな」


 俺は魔法式を展開した。魔法式は白い光を放ち、赤竜の周りを飛び回る。それを見てリリアナとハクが俺の方に避難する。


 赤竜も気づいて逃れようとするものの、尻尾を固定している氷の柱のせいで身動きが取れないでいた。


 そして……


「〈業火〉」


 俺の言葉とともに魔法式から青白い炎が爆音とともに立ち上る。


「ギャァァァァァァァァァァァァァア!!!1」


 凄まじい絶叫。


「ふぅ、これで一件落着、かな」

「えぇ、そうね。これで……」


 誰もが終わりだと思った。だが次の瞬間。


「ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!」


「「っ!?!?!?」」


 この世の終わりとも思える叫び声とともに漆黒の靄が青白い炎を覆い尽くした。

 凄まじい衝撃波が俺らを襲う。


「な、何が起こったの……!?」

「グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 リリアナが混乱した表情になり、ハクが殺気を発する。


「これはやばいな……」


 漆黒の靄が赤竜がいたはずのところに収束していく。炎はすでに消え去っていた。

 身の毛のよだつような気配が大きくなる。


 そしてその中から現れたのは……


「赤竜……?」

「凶暴化した、な」


 以前凶暴化した魔鬼王を見た時も同じような状態だった。


 巨大化した体。血走って瞳孔が開いた眼。


「この漆黒の靄はなんだ……?」


 初めて見る漆黒の靄。いいものでないことだけはよくわかる。

 しかし、そんなことを考えている余裕はなかった。なぜなら……


「っ!? こいつらどこからっ……!?」


 急にどこから湧き出たのかわからない魔物が大量発生したからだ。

 同時に閃く。最初から赤竜には漆黒の靄がまとわりついていた。もしかしたら。


「この靄が魔物大氾濫(スタンピード)の原因か」

「……なるほどね。確かにその可能性はありそうね」

「この靄が迷宮の意思になんらかの悪影響を与えていたのだとしたら……」


 だが、俺の言葉は最後まで続かなかった。


「ワンワンワンワン!!」


 ハクが急に吠え出したからだ。その声と同時に大量の魔物が俺たちの方向かってきた。


「チッ、考える時間もないってことか」

「フェール! こいつらは私とハクでどうにかするわ! だからあなたは赤竜を……!」


 リリアナの言葉に一瞬固まる。

 この量の魔物、さすがにリリアナとハク二人だけでは……!


「ふざけんじゃ……」


 俺は危うく反論しかける。だが、たとえ俺が魔物を倒してリリアナとハクを守ろうとも、大元——赤竜を倒さなければこの現象は終わらない。


 俺は出かけた言葉を飲み込んだ。


「……わかった。死ぬなよ」


 代わりに出た言葉はずいぶんそっけなかった。しかしリリアナは笑みを浮かべる。


「あなたもね! 死んだら地獄まで追いかけて行ってやるんだから!」

「それは怖いな。そうならないためにも勝ってくるよ」

「えぇ! 応援してるわ!」

「ワンワン!」

「ハクも気をつけるんだぞ!」

「ワン!」


 俺はリリアナとハクに背を向け、赤竜に向かって駆け出した。



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