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色々あるけど学園都市で恋がしたい

太陽は学園都市で咲かせたい

作者: いつきのひと

 花火の魔法を教えて欲しいという難題を頂いてしまいました。



 わたしは学園都市初日に無防備にも広場で寝てしまい、そのまま誘拐されてしまいました。

 誰に教わらずとも魔法が使えたわたしは自力で犯人達の隠れ家から脱走したのですが、目立つ行動で見つけてもらうつもりが先生が探査の魔法まで壊してしまい、状況を悪化させてしまいます。


 魔力も尽きたわたしが自分の位置を知らせるために最後の力で打ち上げたのが、今回の話の肝、花火の魔法です。



 わたしの魔法はただ思い浮かべたものをそのまま形にしただけのもので、難しい理論や仕組みはありません。


 あの時の花火は、自分の位置を知らせる狼煙と、何かで見たことがあるような気がした打ち上げ花火のイメージが混ざった結果だと思います。


 必死で打ち上げたのですが、あまりにも大きすぎたんだそうです。

 学園による新入生への歓迎の意を込めたものだとか、学園が名前を呼んではいけない悪い魔法使いを打ち倒した英雄を賞賛して打ち上げたとか、色々噂される事になってしまいました。


 追いかけて来た誘拐犯が目前に迫っている中で子供がそこまで考える事はできません。

 自分でもよくわからない程に魔法を使い続ける等、切羽詰まっていたことをご理解頂きたいと思います。



 計測の魔法を使えなかった事で、魔法が使えない判定を受けたわたしの逃走劇は事実と違う形での公表になりました。


 誘拐された子供は先生から学園が開発した防犯グッズを手渡されていた。

 誘拐犯が放った魔法と共振してしまった事で、グッズが子供の手を引き大脱走。

 追い詰められた事で、学園に今の位置を知らせるべく高く飛び上がり、そのまま自爆。


 そんな感じのシナリオです。被害者のわたしにも聞かれたら話を合わせるようにと釘を刺されました。




 あれからおおよそ数か月。

 もうすぐ開催される開園記念日のお祭りで、打ち上がる花火の魔法が必要になってしまいました。

 あの大きな花火を開園記念日に打ち上げたりしないのかと、問い合わせが多いのだそうです。


 花火の魔法を作る。それは新しい魔法の作成になります。

 その日、額や首や手足に包帯を巻かれて顔も絆創膏まみれのわたしも、先生の同伴の元、招集されました。



 わたしが痛々しい姿になっているのには理由があります。

 数日前、食堂の倉庫で、特別学級の生徒と、悪い魔法使いの手先として動いていた一人の講師と偽の箱を巡る騒動がありました。

 その事件においてラストボスの登場を阻止すべく、わたしは狭い室内で閃光を伴う爆発を起こし、講師の気を引く事で事態の打開を狙いました。

 結果的に悪い魔法使い、サヴァン・ワガニンは到着してしまいましたが、すぐに帰ってくれたので作戦は成功です。

 ですが、私自身は津波に巻き込まれて瓦礫と一緒に流されたり、高い山で滑落事故に遭ってしまった人のような死んでもおかしくない大怪我らしいを負ってしまいました。


 癒しの魔法は扱いが難しいとの事で、一気に全快させてはくれません。

 半端に治療されているので、残っている傷がムズムズしています。



 大勢の教師と、数人の成績優秀な先輩達の中に、ボロボロの一年生が居るのはおかしな光景です。

 事情を知らない人達はみんな訝しげで、理事長からの事情説明を聞いても信じられぬようでした。


「ま、見りゃわかる。アサヒ、やってくれ。」


 ただ居るだけのまま終わって欲しかったのですが、指名されてしまいました。わたしが魔法を使えないという噂しか知らない人達は、不能者であることが何かの条件なのかと違う方面で期待しているようです。

 不能者だから何もできないと決めつけていない。優秀な先輩方は一味違います。


 でも、いいんでしょうか。わたしの魔法の事は機密事項のうちに入ります。


 わたしの不安を察したのか、理事長は今からの出来事を口外する奴はここに居ないと仰いました。

 さらに、理事長の魔法で演習場は学園都市と同じくらい広くなっているそうです。


「ここにいる全員がビビるようなデカいのを頼む。」


 魔法を使うのに影響はないと判断したのか、皆の気を引かぬようにとの配慮なのか、わたしの身体がボロボロな事には触れませんでした。 



 使うのは構いませんが真下から見たのではどんなものなのかよくわかりません。先生と一緒に、集まった人達が豆粒のような大きさになる程の距離を取りました。

 こんなに歩いたのにまだ奥があります。理事長の魔法も凄いですね。



 こうして期待の目で見られながら魔法を使うのは初めてですが、失敗はできません。

 わたしの魔法が手本になるのです。


 それは太陽の花。


 前回と違い、生きるのに必死で打ち上げた、ただの一輪ではありません。

 まだ半年ですが、学園でたくさん学びました。嫌な事も色々あるけれど、楽しい学園生活を送れています。

 なによりも、大好きな先生とずっと一緒にいる事ができています。


 作った火の玉に、いろんな感情を混ぜ込んで、とても大きな一発を打ち上げさせて貰いました。



 呪文も魔法陣も触媒も用意せず、何の予兆も予備動作もなしに放たれた魔法に驚かされ、たった一発でも、見たことがない規模の巨大な花火にも驚かされて、学園の天才達が議論を交わしています。


 彼らは、見たことが無かったはずのわたしの魔法を特別なものとしては見ていませんでした。

 手段は問わない。求めているのは結果だけ。

 先生と理事長以外の人達からも、特別な存在ではなく同じ魔法使いとして見てくれたのは嬉しかったです。



 あちらでは、どの向きから見ても同じ形を維持できるように計算の必要があると計算の得意な先輩が全くわからない計算式を描いています。

 その隣では、爆発の二段階以上の変化を自動制御できるようにするための呪文構成を、手の平の上に作り出した小さな火の玉を用いて研究しています。


 見ただけで自分達の領分を活かして何とかしようとする意欲が凄いです。これが学園でも成績優秀な人達です。

 今から色んな試行錯誤が始まり、ひとつの魔法が出来上がるのです。歴史的瞬間に立ち会う事ができて光栄です。


 皆の想いの蕾を咲かせましょう。

 枯れ木に魔法をかけて花を咲かせた老人の童話を思い出しました。わたしもそういう存在になれているのでしょうか。


 やる気になっている先輩方の参考になるものを失わぬよう、弾切れに気を付けながら、わたしは何度も花火を打ち上げました。





 そこからさらに数日後の、開園記念式典の開幕に際し、大きな花火が上がりました。

 花火の魔法の開発は間に合わず。

 納得のいくものが作れず、妥協した物を出したくないと意固地になられてしまったんだそうです。


 先輩達が作った試作品を模した魔法を、わたしが裏で打ち上げました。



 怪我のせいで入院していたという体面で皆の前に出れなかったのと、偉い人達の集う式典の裏方の花火係をしていたので、お祭り騒ぎには一切関わることができませんでした。

 皆と、先生と出店を回ったりしたかった。残念でなりません。


 だから、ワガママを言いました。

 今、わたしは外泊許可をもぎ取り、病院を抜け出して先生の部屋にいます。

 出店に出されていたタコ焼きなる食べ物を二人で食べながら、色々お話しています。


 今日も先生の部屋にお泊りです。

 この程度で満足してしまう安い女なのは理解しているつもりです。でもこれが一番です。



 最後のタコ焼きが無くなった頃合いに、わたしだけに見て貰いたい物があると言った先生が、照明を消して呪文を唱えました。


 テーブルの上で、小さい火の玉が浮かびあがると、そのままの大きさの小さい花が咲き、一瞬のうちに散ってしまいました。

 この一連の動作は、まごうことなき花火の魔法。

 疲れて眠りかけていた意識が目覚めてしまいました。


 先生が見せてくれた魔法はまだまだ試作の段階であり、改善点があれば聞かせて欲しいと仰いましたが、どこに落ち度があるんでしょう。いつでもどこでも火事の心配もせずに花火が見れるんです。非の打ちどころがありません。


「アサヒさんの物にはまだまだ届きませんね。」


 謙遜しないでください。際限なく大きく咲かせることしか考えてないわたしの花火に似せつつ、卓上サイズで収めるだなんて。


「僕は、あなたに尊敬される先生で居たいと思います。」


 いつもより力がこもっていた先生の言葉は、何かの決意なのでしょうか。

 わたしは先生が大好きですし、尊敬しています。今はこうして大怪我してますが、それでも変わりません。


「大丈夫です! わたしはずっと尊敬しますし、大好きです!」

「ありがとうございます、アサヒさん。」


 先生は静かに笑ってくれました。その笑顔も大好きです。


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