―06― ひたすら避け続けて
〈悪臭液〉は1つでは足りないため、それからも臭う獣の討伐に邁進した。
20体ほど、討伐したタイミングで夕方になったので、狩猟を終了し、野宿の準備をする。
通常、モンスターが潜む森の中で野宿するなんて考えられないことだが、ここで役に立つのが手に入れたばかりの〈悪臭液〉だ。
モンスターは人間よりも臭いに敏感。
だからこそ、〈悪臭液〉をほんの数滴周囲に垂らすだけで、人間にはその臭いがわからないが、モンスターにとっては悪臭なため、近づいてこなくなる。
なので、〈悪臭液〉があれば、安全に夜を過ごせるというわけだ。
俺は〈アイテムボックス〉からキャンプ道具一式を取り出す。
それから、薪を集めて〈灼熱岩〉で火をおこす。
その上に、鉄板を乗せて狩ったばかりの臭う獣の肉をのせる。
味付けに塩と胡椒、それからさっき森で採集したハーブなんかを使えば、できあがり。
単純だけど、おいしいステーキだ。
一人だし、行儀なんか気にせずステーキにかぶりつく。
少し味付けがさっぱりしすぎかな? けど、悪くない。
ジューシーな肉汁が口の中に広がり、絶品だ。
さて、夕飯が終わった頃には、もう夜を迎えそうになっていた。
だから、寝袋に入り、俺は寝ることにした。
◆
早朝。
起き上がると、俺は軽く干し肉でお腹を満たして準備にとりかかる。
これから狙うは大物だ。
気を引き締めないとな。
それから数時間、森を徘徊した。
「モンスターの糞だな」
俺は糞を見て、足をとめる。
糞の形を見れば、その糞がどのモンスターが落としていったものか、ある程度わかる。
そして、この糞の形状は今日の標的が落としたものだ。
それにこれは、できたばかりのモンスターの足跡。
これはつまり、この近くに標的がいるってことだ。
「たぎってきたな」
そう呟きつつ、俺は作戦にとりかかった。
◆
「誘導がうまくいったようだなぁっ!」
森の茂みに隠れながら、俺はそう呟く。
作戦がうまくいったようなので、ニヤニヤがとまらない。
そう、目の前にはこれから俺が討伐する予定のモンスターがいる。
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〈大爪ノ狼〉
LV:61
大きく発達した爪で、あらゆる敵を切り裂く。
発達した嗅覚を用いて、敵の位置を認識する。
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レベル61。大物だ。
どう考えても、レベル1の俺が相手していい獲物ではない。
だが、これからこのモンスターとやり合うんだと思うと興奮が鳴り止まない。
さぁ、狩りの時間だ。
まずは弓矢で、片目をつぶす。
大爪ノ狼は四つ足なため、腕で矢を防ぐことは難しい。
だから、確実に当てる。
ヒュン、と矢が飛び、目に直撃した。
いいねぇ、ついている。
「グォオオオオオオオオオオ!」
片目を潰された大爪ノ狼は雄叫びをあげる。
大爪ノ狼は獰猛なモンスターだ。すぐに怒りは頂点に達するはずだ。
だが、その場で暴れまわるばかりで、俺の存在を認識できていない。
いいねぇ、作戦はうまくいっているようだ。
大爪ノ狼は嗅覚が非常に発達したモンスターだ。そのため、鼻を使って獲物の位置を認識する習性がある。
そこで、この〈悪臭液〉。
すでに、周囲一帯に大量の〈悪臭液〉を散布している。
正直、すげぇ臭い。
この臭いのせいで、大爪ノ狼の鼻が使い物にならない。
だから、敵の位置がわからず混乱しているわけだ。
「だから、隙だらけってわけだ」
そう言いながら、俺は弓矢を放った。
狙うはもう片方の目。
ビュヒュッ、と矢が目を突き刺す。
「グォオオオオオオオオオオ!」
さらに、大爪ノ狼は痛みで雄叫びをあげる。
そして、こっちに牙を向けた。
「きひひっ、どうやら俺の位置がバレちゃったようだぁ!」
目は失っても大爪ノ狼には鼻がある。
〈悪臭液〉で、ある程度鼻が効かないとはいえ、全く効かないわけではない。
なんとか、俺の臭いをかぎ取り、敵を認識したようだ。
瞬間、俺のほうへと襲いかかる。
大爪ノ狼はその巨体を動かすだけで、土煙が巻い、地面は揺れる。
体にぶつかり吹き飛ばされるだけでも、即死は免れない。
絶体絶命。
「これだから、『縛りプレイ』はやめられないんだよなぁ!!」
俺にとって、ピンチこそ最高のディナーだ。
それからひたすら攻撃を躱し続けた。
モンスターの攻撃をひたすら先読みし、それに合わせて体を動かす。
「やばぁっ、攻撃する隙が一切ないや!!」
攻撃なんてしようものなら、その隙にやられしまう。
だから、ひたすら攻撃を避けることに集中する。
避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける、避ける――
それを何回も繰り返して、そして――
「ここだぁ!」
そう叫んだ俺は、崖から飛び降りた!