―32― 圧倒
どうやら当たりを引いたらしい。
それはゲートをくぐった瞬間にわかった。
くぐった先は開けたドーム状の空間になっていたからだ。
恐らく、そこにボスモンスターがいるに違いない。
中に入って気がつく。
どうやら先行した冒険者たちと戦っていたらしく、周囲一帯には倒れた冒険者たちがいる。
意識を失っているだけで、まだ生きている者も多い。
「フィーニャ、上級回復薬を渡すから、全員に配ってやれ」
「了解したのじゃ!」
そう言って、上級回復薬を必要な分、フィーニャに手渡す。
「それで、おぬしはどうするんじゃ?」
上級回復薬を受け取ったフィーニャが尋ねた。
「そりゃ、あれと戦うに決まっているじゃん」
眼前には、俺を見てニヤけた表情をした子鬼ノ王の姿が。
子鬼ノ王か、いいねぇ大物だ。
倒しがいがある。
「それじゃあ、俺と遊ぼうか」
「グヘッ!」
瞬間、子鬼ノ王が俺の元に飛び込んで棍棒を振り回す。
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SP18ポイントを消費して、〈パリイLV1〉を獲得しました。
SP248ポイントを消費して、〈パリイLV4〉にレベルアップさせました。
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〈パリイ〉とは、剣を使って物理攻撃受け流すことできるスキル。
しかし、発動させるタイミングが非常に繊細で、成功させるには難易度が高いことでも知られている。
剣士系のジョブなら、スキルポイントを2消費するのみで〈パリイ〉を獲得することできるが、俺は錬金術師という生産系ジョブなため、18という決して少なくないスキルポイントを消費する必要がある。
とはいえ、それだけ消費して獲得する価値はある。
レベル4まであげた〈パリイ〉なら、子鬼ノ王の攻撃を受け流すことができるはずだから。
タイミングさえ間違えなければ、という前提はもろちんあるが。
「〈パリイ〉」
そう言って、俺はナイフで、子鬼ノ王の棍棒を受け流す。
「あっ」
と、声を漏らしたのにはわけがある。
パリン、とナイフが砕け散ってしまったからだ。
どうやらナイフそのものが攻撃に耐えることが難しいらしい。
ナイフは武器の中で最も脆弱だから、仕方がないと思う反面、まいったなぁとも思ってしまう。
だって――
「これでは『ナイフ縛り』ができないではないか」
せっかく、今まで剣ではなくずっとナイフを使っていたというのに。
「グギャッッ!!」
ナイフを失った俺を見て、子鬼ノ王が次なる一撃を俺に食らわそうとする。
仕方がない、あれを使うか。
「鋼竜の短剣」
そう言って、〈アイテムボックス〉から短剣を取り出す。
この短剣は、鋼鱗竜の鱗を素材にスキル〈加工〉を用いて生成したもの。
念のため作っておいたが早速役に立つとはな。
ちなみに、鋼竜の短剣の効果はこう。
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〈鋼竜の短剣〉
攻撃力プラス274
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レベル1段階の俺の攻撃力が45ってことを考えると、いかにこの短剣の攻撃力がすさまじいかわかるだろう。
「〈パリィ〉」
鋼竜の短剣を使って、〈パリイ〉をする。
よしっ、ナイフと違って鋼竜の短剣が砕けることはないな。
再び、子鬼ノ王が棍棒を振り回す。それを短剣で〈パリイ〉すべく構えた――フリをした。
子鬼ノ王は相手にダメージを与えられるまで、大ぶりの攻撃を繰り返すことは『ゲーム』にて知っていた。
だから、三回目〈パリイ〉するフリをして、短剣を手放す。
突然、手を離れて自分に向かってくる短剣に子鬼ノ王はギョッとした表情をしながら、もう片方の手で防ごうとする。
とはいえ、もう一方の棍棒を握った手は俺を狙って振りかざしていた。
なので、〈繰糸の指輪〉を使って真後ろに高速移動。
〈アイテムボックス〉から弓矢を取り出して猛毒矢を放つ。
さらに、弓矢を〈アイテムボックス〉に収納と同時に、閃光筒を取り出し放り投げる。
子鬼ノ王は矢を防ぐことに集中しており、閃光筒のことまで意識が回らない。
閃光筒から光が放たれる一瞬だけ目をつむって、俺は〈繰糸の指輪〉で子鬼ノ王の近くに躍り出た。
閃光筒の光によって、目が眩んでいる子鬼ノ王は、俺が接近していることに気がつかない。
〈アイテムボックス〉には鋼竜の短剣がいくつも収納してある。
だから、〈アイテム切り替え〉をつかって、手に短剣を収めると、それを横に薙ぐように切り裂く。
狙うは両目。
「きひっ!」
「グギャァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
両目を切り裂かれた子鬼ノ王は発狂する。
こんなふうに発狂されたら、攻撃してくれと自分で言っているようもんだ。
だから、口の中に手投げ爆弾を押し込んでやった。
ドガンッ! 子鬼ノ王の口の中から爆発音が響く。
そして、ドサッと子鬼ノ王は真後ろに倒れた。
◆
「なにが、起きているんだ……?」
目の前で起きている事象に、ジョナスは信じられないものを見る目で見ていた。
なぜか、レベル1の冒険者が子鬼ノ王相手に圧倒している。
「強いじゃろう。わらわの主は」
見ると、横にはフードをかぶった少女が自慢するように語っていた。
少女はさっきまで上級回復薬を他の冒険者たちに配っていたため、ここに来たということはもう配り終えたのだろう。
「あれは、何者なんだ……?」
思わず曖昧な質問を少女に尋ねてしまう。
「ジョブは錬金術師だといっておったなぁ」
「それは知っている……」
「おぉ、そうか、知っておったか」
ケラケラと少女は笑う。
「なんで、あんなに強いんだ?」
「さぁな? それは、わらわにもわからん」
「そうか……」
「ただ、あやつは『縛りプレイ』をしていると言っておったから、それが強さに関係しているのかもしれんのう」
縛りプレイ、なんだそれは? と、ジョナスは思った。
それからジョナスは、ただ黙ってユレンの戦いぶりを見ていた。
ユレンから繰り出される猛攻に子鬼ノ王はただなすがままにやられている。
そして、ほどなくして、子鬼ノ王は倒れた。
ユレンの圧倒的強さに、ジョナスは心の内から震えた。