―31― 精神的柱
ここに集まった冒険者たちのジョブは多岐にわたる。
まずは、大剣使いのジョナス。
斧使いのボブ。
大盾使いのジョン。
他には、魔術師もいれば、弓使いもいる。
前衛も後衛も満遍なくいるが、回復職だけいなかった。
回復職だと、ソロで中継地点まで攻略するのが難しかったらしく、何人かいた回復職のうち一人しか中継地点にたどり着くことができなかった。
その一人は、もう片方のグループに入れたため、この場に回復職はいない。
なので、できるかぎりダメージを負わないように戦う。
それが、全員の思惑だった。
子鬼ノ王の攻撃をジョナスが、ときにはボブやジョンが受け止めつつ、その隙に後衛職が攻撃をする。
そうやって、徐々に子鬼ノ王のHPを削っていく。
「くそっ、やっぱ強すぎだろ!」
子鬼ノ王の重い一撃を受け止める必要があるため、どうしても前衛の負担が大きい。
さっきから、一人ずつ攻撃を耐えきれなかった前衛が倒れていく。
「ボブ、ジョン、まだやれそうか?」
「あんたにいわれずとも、俺はまだ平気だ!」
「同じく!」
二人とも強気な発言をするが、体力がすでに限界なのは見ていてわかる。
思った以上に、ダメージが削れていないな。
後衛職がさっきからひっきりなしに攻撃をしてくれているものの、ダメージが乏しいのか、子鬼ノ王が倒れる気配がない。
出し惜しみをしている余裕はないな。
そう思い、ジョナスは構える。
「〈渾身の一撃〉」
スキル〈渾身の一撃〉。一時的に攻撃力が上昇した状態で大剣を振り下ろす攻撃。
強いダメージを与えられる分、発動までの予備動作が長いため、敵に隙がないとこのスキルを使用できない。
子鬼ノ王は今、ボブとジョンに構っているため、今なら成功すると踏んで発動させた。
ビュルンッ、と風を切って子鬼ノ王に一撃を与える。
攻撃を受けた子鬼ノ王は壁に激突をした。
「やったか……!」
誰かがそう口にした。
「油断するな!」
ジョナスはすかさず警戒するよう注意を促す。
「グギャォオオオオオオオオオオ!!」
子鬼ノ王がひどく耳障りな雄叫びをあげる。
「グフッ」
次の瞬間、声を漏らしながら後方に倒れるボブの姿が。
なにが起きた……?
子鬼ノ王はまだ壁際にいる。
壁際からどうやって、遠くにいるボブを攻撃したというのだ。
「ガハッ」
他の者たちも呻き声をあげて倒れていた。
そして、やっと気がつく。
「壁の瓦礫を投げているぞ!」
そう、子鬼ノ王は激突したことでできた瓦礫を冒険者たちに投げていたのだ。
あまりにも早い投擲なため、一瞬なにが起こったかわからなかった。
「これ以上好きにさせるかっ!」
これ以上、瓦礫を投げさせないように子鬼ノ王に突撃する。
だが、子鬼ノ王が向かってくる危険に対して、なにもしないわけがなかった。
一番大きな瓦礫をジョナスの頭部めがけて投げたのである。
「ガハッ」
直撃したジョナスはそう言葉を漏らす。
そして、体を後方に吹き飛ばす。
「くそぉっ」
立ち上がろうとするも、目眩がしてうまく立ち上がることができない。
その隙に、次々と冒険者たちが倒れていく。
「俺が……っ、俺がなんとかしないと、いけねぇんだよぉおおおおおお!!」
この中で一番強いのは自分だ。
だからこそ、倒れるわけにはいかない。
自分が倒れてしまったら、他の冒険者が絶望して戦いが疎かになってしまう。
自分は戦力的にも重要だが、精神的柱としても自分は戦い続けなくてはいけない。
だから、気合いで立ち上がる。
「グヘッ」
それを見た子鬼ノ王が満面な笑みを浮かべた。
すでに、勝ったつもりでいるんだろう。
「なにがおかしい……っ!」
だから、ジョナスは吠えた。
そして、大剣を振りかざす。
ジョナスにとって、全身全霊の一撃だ。
「ぐはっ」
だが、それより先に子鬼ノ王が棍棒を振り回すほうが速かった。
無慈悲な一撃を受けたジョナスは壁へと激突する。
それと同時に、口から血を吐き出す。
もう手足の感覚がないほどに疲弊していた。
「まだ戦える……っ」
それでも意識を強く保つ。
意識さえ保っていれば、まだ逆転できるはず。
そう信じて。
だが、同時に、それが意味ないんだってこともわかってしまう。
もう、この場で立っているのは子鬼ノ王のみだった。
「くそ……っ」
そう叫んだ言葉には、どこか悲観的な感情がこもっていた。
俺たちの負けなのか……っ。
いや、それを認めるわけにはいかない。
なにかないのだろうか? この状況からでも、逆転できるなにかが。
考えろ……っ。
ジョナスは頭を必死に絞る。
だけど、なにも思い浮かばない。
いや、考えたって仕方がないのは始めからわかっていた。
この状況をひっくり返す奇跡なんてもんが存在しないのだ。
だから、この戦いは俺たちの負けだ。
「なんだ、もう戦いは始まっていたのか」
第三者の声。
その声はジョナスにとって、青天の霹靂だった。
「なんで、お前がここに……」
目の前に立ち尽くす冒険者に対し、ジョナスはかすれた声で疑問を口にする。
「なんでって、ボスモンスターと戦うために決まっているじゃん」
そう言って、その冒険者は笑った。
まるで、ここに自分がくるのは当たり前だと言いたげに。
そう、目の前にいたのはレベル1の冒険者――ユレンだった。