―03― 鎧ノ熊
俺は『縛りプレイ』が好きだが、決して死にたいわけではない。むしろ、死ぬのは普通に嫌だ。
『ゲーム』では死んでもやり直しができたが、現実では死んだら終わりだ。
だから、レベル1でもモンスターに勝てるように入念な準備を行う。
それが俺のやり方だ。
「あった」
そんな俺は準備を行っていた。
子鬼が生息していたのは、鉱山の一角。ここで、俺はある物を採取していた。
子鬼を狩ったのは、レベル上げという側面もあったが、安全に採取するためという目的もあった。
重要なのは、どちらかというと後者のほうか。
採取したのは〈灼熱岩〉。
その名の通り、熱が中にこもっている岩で火を起こすのに、使われている。
この〈灼熱岩〉を俺は袋につめられるだけ、つめていく。
そして、もう一つ俺はある物を探しに、今度は森にはいっていった。
「これがそうだな」
手にしていたのは〈固い実〉。
名前の通り、固い殻に覆われている実だ。木から生えているため、そこから採取する。
〈灼熱岩〉と〈固い実〉で材料は揃った。
この二つに対して、俺のスキル〈加工〉を用いる。
『ゲーム』では成功する確率はそれなりに高かったので、恐らく問題ないと思うが……。
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〈加工〉に成功しました。
〈手投げ爆弾〉を入手しました。
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よしっ、成功した。
手投げ爆弾とは、爆弾系統の武器で、安全ピンを外して対象に投げれば爆発する代物だ。
これからレベル1で戦う俺にとっては、この手投げ爆弾がメインウェポンとなるだろう。
レベル1だと、どうしても攻撃力が低いため、その人の攻撃力でダメージ量が変化する剣では、モンスターを倒すのが難しい。
しかし、爆弾はその人の攻撃力に関係なく、一定のダメージを与えることができる武器だ。
それゆえに、俺のような縛りプレイヤーにとっては重宝する武器となるわけだ。
そして、俺はこの手投げ爆弾を持てるだけ用意する。
「よしっ、これで次の段階に進める」
それじゃあ、新しい獲物を狩りに行こうか。
◆
「みつけた……!」
眼前にいたのは一体のモンスター。
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〈殺人角兎〉
LV:12
頭に角が生えたウサギ型モンスター。
非常に獰猛なことで知られている。
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殺人角兎を狙うのには理由がある。
まず、殺人角兎は非常に攻撃力が高く素早いモンスターとして有名だ。
反面、防御力が非常に貧弱。
「つまり、手投げ爆弾を当てるだけで倒せるってわけ!」
そう言って、俺は遠くから手投げ爆弾を殺人角兎めがけて放り投げる。
ドガンッ、と音が鳴り、殺人角兎が倒れる。
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レベル上昇に伴う経験値を獲得しましたが、〈呪いの腕輪〉の影響で、レベル1に固定されました。
SPを獲得しました。
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よしっ、一体倒すだけでスキルポイントを獲得できた。
これは非常においしい。
手投げ爆弾は、その人の攻撃力のステータス値に依存しないため、攻撃力が低い俺でも十分ダメージを与えることができる。
だから、手投げ爆弾がある限り、殺人角兎を狩ることできるというわけだ。
「そろそろ、いい頃合いだな」
すでに殺人角兎を何十体も倒した。
スキルポイントを確認すると、28ポイントも貯まっている。
これだけあれば、欲しいスキルが獲得できるな。
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SP28を消費して〈エイムアシストLV1〉を獲得しました。
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〈エイムアシスト〉は弓矢で遠くを狙うとき、命中率に補正がかかるというもの。
ジョブが弓使いなら初期から手にしているスキルだが、錬金術師でも28という高いスキルポイントを払えば獲得できる。
この〈エイムアシスト〉は次に狩るモンスター相手にとても役に立つ。
「それじゃあ、大物を狙おうか」
◆
「みーつけたっ」
森林に潜伏して3時間、遠くに現れたモンスターを見て俺は歓喜の声をあげた。
そう、俺はあるモンスターを倒すために、ひたすら潜伏をしていたのだ。
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〈鎧ノ熊〉
LV:32
鎧のような固い皮膚を持つ熊型のモンスター。鋭利に伸びた爪を使って、攻撃をする。
攻撃力、防御力、ともに高い。
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常識で考えれば、LV32のモンスターをLV1の俺が一人で相手していいモンスターではない。
とはいえ、『縛りプレイ』をしている俺にとっては相手のモンスターのレベルなんて関係ないんだけどな。
「ゲームスタートだ」
そう言って、俺はモンスターの前に飛び出した。
まずは、ナイフを用いた初撃。
とはいえ、LV1の俺の攻撃力なんてたかが知れているので、期待はしていない。
目的は相手を怒らせること。
攻撃を受けるとモンスターの大概は怒って、攻撃してきた冒険者に襲いかかってくる。
その習性を利用させてもらう。
攻撃と同時、俺は鎧ノ熊から全力で距離をとるよう動いた。
すると、狙い通り鎧ノ熊は俺に一直線に向かって襲いかかってくる。
よしっ、こっちに来い。
そう思いながら、俺は飛び跳ねた。
「残念。そこは落とし穴ですっ!」
振り返ると落とし穴に落ちた鎧ノ熊の姿が。
そう、俺は事前に落とし穴を作っておいたのだ。その落とし穴に落ちるよう、ここまで誘導したってわけだ。
もちろん落とし穴に落ちて終わりではない。
ちゃんと、仕上げは用意してある。
「〈手投げ爆弾〉7連発――」
そう言って、俺は手に入れたばかりの〈手投げ爆弾〉をすべて穴に放り投げた。
同時に、耳をつんざくような爆発音が鳴り響く。
「さーて、死んだかなー、それとも、生きているかなー」
死んだなら、俺の準備が完璧だったということだから、それは大変良きことだ。
生きているなら、まだゲームを楽しめるってことだから、それはそれで最高だ。
「グゥゴォオオオオオオオオオオ!!」
落とし穴から雄叫びとともに、黒い影がはいでてきた。
「あはっ! 残念、まだ生きていたか!」
なぜか、鎧ノ熊がまだ生きていたというのに、笑いがとまらない。
なぜだ?
あー、そうか、今この瞬間が最高に楽しいからだ!
俺は鎧ノ熊からできるかぎり距離をとりながら、用意していたあるものを手にする。
それは、弓矢。
弓矢は木と植物の繊維、それと鏃となる鉄鉱石を〈加工〉することで入手可能だ。
こういう事態に備えて、準備しておいた。
鎧ノ熊は固い皮膚に覆われているため、体が重たく動きも鈍い。
だから、落とし穴から出てくるのに、多少時間がかかるはず。
その間に俺は弓矢を持ち、いつでも矢を放てるよう構える。
狙うは、鎧ノ熊の目。
モンスターの耐久力は、部位ごとに補正値が存在する。
例えば、鎧ノ熊の場合、鎧のような固い皮膚に覆われている胸や肩にはプラス補正があるため、非常に耐久力が高い。
逆に、関節は柔らかい皮膚で覆われているため、マイナス補正され、耐久力が低くなり、弱点となるわけだ。
だが、俺はレベル1で攻撃力はゴミのような数値。
鎧ノ熊にとっての弱点でさえ、俺の攻撃力ではまともにダメージを与えるのは難しい。
だが、弱点の中でも、唯一俺でもダメージを与えられる箇所がある。
それが、目だ。
目に関しては、マイナス補正値があまりにも大きいため、耐久力はほとんど役に立たない。
だから、狙うのは目なわけだ。
通常時に弓矢で目を狙っても、両手で払いのけられるのがオチだ。
だが、落とし穴で出てこようとするこの瞬間のみ、両手は穴をでるために使うためふさがっている。
そう、この瞬間だけ、目ががら空きなわけだ。
とはいえ、目なんていう小さな標的、当てることは非常に難しい。だから、俺はさきほど〈エイムアシスト〉というスキルを手に入れた。
まぁ、〈エイムアシスト〉があったとしても、普通の冒険者なら目に当てるのは不可能だろう。
だが、俺には『ゲーム』で培った経験と、この瞬間のためにしてきた特訓がある。
一度でも外したら、警戒されるため、チャンスはこの一度のみ。
これを外したら、俺の命はないものだと思え。
「はぁー、はぁー、はぁー」
緊張感が全身を襲い、呼吸が荒くなる。
チャンスは一瞬。
しかも、目という小さな的に矢を当てる必要がある。
もし、失敗すれば、俺の命はない。
まさに、絶体絶命の状況といえるだろう。
「やばい……っ、さっきから、脳汁がとまらねぇ」
そうだ。
俺はこの瞬間のために生きているんだ。
『ゲーム』にハマっていた頃、簡単に勝てるようになるとすぐ飽きてしまった。
勝つか負けるかわからない、ギリギリの攻防がいつも楽しかったのだ。
だから、俺は『縛りプレイ』をするようになった。
そして、今、負けると自分の命がなくなるという最高にスリリングな瞬間に出会えた。
やっぱり縛りプレイって最高っ!
「グァガァアアアアアアアアアアアア!!」
鎧ノ熊はひょっこりと穴から顔を出した。
今だ……。
この瞬間を狙って、俺は矢を放つ。
ザシュッ! と矢が右目を潰した……!
当たった。
俺は『縛りプレイ』をするために、あらゆる準備をしてきた。それには、剣の特訓や弓矢の特訓も含まれる。
それが役に立った瞬間だろう。
「グギャァアアアアアアアアアアア!!」
鎧ノ熊が痛みに耐えられず絶叫をする。
「口の中ががら空きだぜ」
そう言って、俺はほいっと〈手投げ爆弾〉を鎧ノ熊の口の中にいれた。
ドガンッ! と爆発音が響く。
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経験値を獲得しました。
レベル上昇に伴う経験値を獲得しましたが、〈呪いの腕輪〉の影響で、レベル1に固定されました。
SPを獲得しました。
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メッセージウィンドウが表示される。
このメッセージが表示されたということは、モンスターが倒れたということだった。
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