―23― なで回す
「うぐっ」
目を覚ます。
あぁ、どうやら気絶してしまったらしい。
「うおっ! やっと目が覚めたか! 心配したぞ!」
目が覚めると同時に、フィーニャが勢いよく抱きついてくる。
どうやら心配かけたらしい。
「離れろ」
そう言って、くっついたフィーニャを引き剥がす。
「わらわは大層心配したのに、随分と冷たいじゃないか」
「心配してくれ、なんて頼んだ覚えはない」
「むっ、わらわとおぬしは一心同体の関係じゃ。心配するのは当然であろう」
「そんな関係になった覚えはないんだが」
「まぁ、そう言っていられるのも今のうちじゃ。そのうち、おぬしのほうからわらわのことを求めるようになるはずじゃ」
「天地がひっくり返ってもありえねーよ」
とか言いつつ、周囲を見回す。
「どこだ、ここ?」
「以前も使った洞穴じゃ」
「あぁ、あの……」
フィーニャと初めて出会った洞穴にいたようだ。
確かにここなら他のモンスターに出会う心配もないため安全だ。
「そうだ、あれも一応持ってきたぞ。中に入らなかったから外に置いてあるが」
ということなので、外に出ると鋼鱗竜の死骸が置いてあった。放っておくと、他のモンスターに食べられてしまう可能性があるため、こうして持ってきてくれたのは非常にありがたい。
「そっか。ありがとうな、フィーニャ」
なので、お礼を言いつつ頭をなでる。
「おい、わらわを子供使いするな!」
といって、頭に置いた手を払いのけられた。
「どう見ても子供だろ」
「わらわはこう見えておぬしよりずっと年上じゃぞ!」
まぁ、フィーニャの正体はモンスターだし。見た目と年齢が不一致でも不思議ではないか。
「そっか、それは失礼した。ついでに、何歳なんだ?」
「むっ、乙女に年齢を聞くとは。失礼なやつじゃな」
めんどくさっ。
人外のくせになにが乙女だよ。
「おい、なにをする! 髪が乱れるだろ!」
腹が立ったので頭を強くなで回してやった。
さてと、気が済んだことだし、鋼鱗竜をアイテムボックスに収納して、帰り支度を始めた。
◆
「ユレン殿、大変申し訳ないが、少々ごたついていてまだユレン殿の素材を換金することはできないのです」
冒険者ギルドに行っていつも通り、カウンターにて素材の換金をお願いしようとしたら、裏からギルドマスターがでてきてそう口にした。
俺がレベル1でもあるにも関わらず、高レベルのモンスターの素材を換金しに持ってくるため、誰かから素材を奪ったんじゃないかと疑われたわけだ。
とはいえ、決闘で俺の実力も見せたし素材が奪われたという被害も出てないということで、すぐに疑いは晴れるという話だったのだが。
「随分と時間かかっているんですね」
以前会ったときには、「明日にはなんとかなる」とギルドマスターが言っていたと思うので、そんなことを口にしてしまう。
「えぇ、申し訳ありません」
「いえ、仕方がないですね」
と、ギルドマスターは申し訳なそさうに頭を下げるため、これ以上に責める気にはなれなかった。
「ときにユレン殿、一つ尋ねてもよろしいですか?」
「なんでしょうか」
「メルカデル伯爵様となにかご関係がおありですか?」
関係もなにもメルカデル伯爵とは俺の父親のことを指しているに違いない。まぁ、こうして実家を追放されたので、もう関係ないと思いたいが。
「いえ、心当たりはありませんね。そのメルカデル伯爵様が今回の件になにか関わっているんでしょうか?」
「あぁ、あまり公の場にて申し上げにくいのですが、メルカデル伯爵様がどうもユレン殿のことを強く疑っているようなのです」
あぁ、なるほど、そういうことか。
ギルドマスターは以前、上の者と相談すると言っていた。その中に、父親が含まれていたというわけだ。
そして、父親の圧力のせいで、俺は冒険者ギルドにて換金するのが難しくなったという筋道だろう。
「事情はわかりました。その上で、今回もモンスターの素材を持ってきたのですが、預かってもらうことはできますか? 疑いが晴れたら、改めて換金してもらうということで」
「ええ、構いません。それでは預からせてもらいます。おい、エレーナ」
「はい、なんでしょう?」
ギルドマスターに呼ばれてやってきたのは、以前も応対したことがある受付嬢だった。エレーナという名前だったらしい。
「ユレン殿が素材を持ってきたということだから、預かるための手続きをしてくれ」
「はい、わかりました!」
そう言って、エレーナが俺のほうを見る。
「今度はどんなモンスターを出しても驚かないですからね!」
一体、なんの宣言だよ、と思いながらアイテムボックスから鋼鱗竜の死骸を出した。
「えぇえええええええええ!? あ、あの鋼鱗竜じゃないですか!?」
そして、エレーナは驚いていた。
「ちょ、どういうことですか!? あの鋼鱗竜をあなたが討伐したということですか!?」
「まぁ、そういうことになるな」
「あり得ないですよっ!? やっぱりこの人、他の人から素材を奪っているんじゃ――」
「これ、そういうことを確証もないのに言うんじゃない!」
「ごめんなさいっ!」
パシン、とエレーナがギルドマスターにはたかれていた。
「それでは、責任をもって預からせてもらいます」
そんなわけで、鋼鱗竜の素材をギルドへ渡した。
にしても、父親が関与してきたとなると、少し厄介なことになるかもな。
この後、もう一話投稿予定です。
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