―20― 楽しい時間
日が落ちて、辺りは真っ暗になった。
「フィーニャ、夜目はきくか?」
「まぁ、おぬしよりは見えると思うが」
「そうか、なら、誘導を頼む」
暗闇の中を進むのは非常に危険だ。
明かりをつければ、多少は改善されるが、自分がいる位置を誰にも知られたくないため、あえて明かりはつけずに、フィーニャの誘導と、月明かりを頼りに進んでいく。
「そもそも、わざわざ夜中に行動するのはなぜなんじゃ?」
「この時間なら鋼鱗竜は寝ているだろ」
ドラゴンのような食物連鎖の頂点にいるようなモンスターは基本、昼に活動する。
逆に、ドラゴンに捕食されてしまうようなモンスターは昼は隠れてやり過ごし、夜は活発に活動する夜行性が多い。
そんなわけで、ドラゴンが寝ているであろう夜にこうして活動しているわけだ。
「ひとまず、ここ一帯には〈地雷〉を埋めていく。踏まないよう気をつけろよ」
「うぬ、了解したのじゃ!」
そういうわけで、スコップで土を掘りながら〈地雷〉を埋めていく。
もちろん、罠は他にもたくさん用意してある。
それら全てを準備し終えた頃には、もう朝日が昇っていた。
◆
「それじゃ、ここからは手をだすなよ」
「わかっておる。わらわはなにも手をださない」
フィーニャの了承も得たことだし、ここからは一人で行動する。
「さーてっ、始めますかっ!」
双眼鏡のはるか先には、寝そべっている鋼鱗竜の姿が。
鋼鱗竜は鱗がすべて鋼でできるため、非常に防御力に優れている。反面、体は重く、足は遅い。
さらに、翼はあるが、体が重たすぎて飛ぶことはできない。
まさに、俺が狩るのにうってつけのモンスターだ。
まず、最初は弓矢。
ということで、左手で弓を引いて放す。
すると、矢がモンスターの頭部に直撃した。
「ウゴォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
耳をつんざくような咆哮。
ただ唸るだけで砂埃は舞い、地面は揺れる。
「いいねぇ! やっぱ狩りはこうでなくちゃ!」
俺を敵として認識した鋼鱗竜がこっちに迫ってくる。
「さて、それじゃあ逃げますか」
〈繰糸の指輪〉を用いて、素早く離れる。とはいえ、離れすぎて見失ってもらっても困る。
一定の距離を保ちながら、俺は誘導した。
ちゃんとついてきているな。
ちらり、と後ろを見ながら様子をうかがう。
そして、立ち止まった。
「さぁ、ここまで来い」
その上、鋼鱗竜のほうを振り向いて手招きする。
「グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
挑発されたと思ったのか、鋼鱗竜は呻き声をあけで、猪突猛進で俺のほうへ突っ込んで来た。
その瞬間、モンスターの足下が爆発する。
「いひっ、ようこそいらっしゃいました! こちらは、地雷原でございます!」
この辺りには、大量の〈地雷〉を埋めてある。
鋼鱗竜のような巨体なモンスターが地雷をさけて、歩くことは不可能。
ちなみに、俺は埋めた場所を全部覚えているから、自分が踏む心配はない。
「おいおい、立ち止まるなよ。立ち止まるんだったら、狙わせてもらうぜ」
地雷の存在に気がついた鋼鱗竜が警戒してか立ち止まる。
だったら、弓矢の的にさせてもらうだけだ。
使っている矢は〈猛毒矢〉なため、攻撃力の低い俺でも決して無視できない毒のダメージを与えることができる。
ちなみに、鋼鱗竜が毒耐性が低いことはすでに『ゲーム』にて確認済み。
「おい、だからって、そっちによけるなよ。そっちも地雷だらけだぜ」
ドガンッ、と音が鳴り響く。
鋼鱗竜が地雷を踏んだのが原因だ。
「クゴォオオオッッ!!」
怒り狂った鋼鱗竜が今度は、俺のいる方へ突進する。地雷があろうが気にしないとでも言いたげなのか、足下が爆発しても気にせずここまで突っ込んでこようとする。
「さて、緊急回避っと」
俺には〈繰糸の指輪〉がある。
これがあれば、糸を真後ろに粘着させてから糸を引くことで自分の体を粘着させた場所まで一瞬で移動できる。
それでも、鋼鱗竜は強力な脚力で俺のいる場所まで、一気に移動してくる。
「まっ、そこには落とし穴があるんだけど」
目の前で鋼鱗竜は落とし穴にはまって、姿勢を崩していた。
そう、落とし穴のここまで鋼鱗竜をわざわざ誘導したわけだ。
「そして、仕上げはこれだ」
そう言って、俺は横にピンと伸びている糸をナイフで斬る。
その瞬間、鋼鱗竜の頭上には落ちようとしている〈巨大爆弾〉が。
あらかじめ、木の上に糸を切れば落ちるように〈巨大爆弾〉を設置しておいたというわけだ。
「さぁて、俺も急いで逃げないと巻き込まれてしまうぞッ!!」
〈巨大爆弾〉は強い衝撃を加えることで、周囲一帯を焼き尽くす。
なので、近くにいる俺も巻き込まれる対象だ。
なので、〈繰糸の指輪〉を使って、できるかぎり遠くへ逃げる。
それと同時に、ドガンッッ!! という耳をつんざくような爆発音が響いた。
「うおっと」
足下から焼け焦げた匂いがする。
もう少し逃げるのが遅かったら、巻き込まれていたな。
「やったか……?」
とはいえ、〈巨大爆弾〉が鋼鱗竜に直撃したのは、見なくてもわかる。
〈巨大爆弾〉の威力は絶大。
これで倒せてしまってもおかしくはないだろう。
爆弾による煙のせいで、すぐにはどうなったか判別できない。
そんな煙の中――。
「グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
という雄叫びが聞こえた。
「あははっ」
自然と笑いが零れた。
煙の中から出でたのは、爆弾のせいで鉄でできた鱗が何枚も焼き落ちていたが、それでも高くそびえ立つ鋼鱗竜の姿だったからだ。
「そうでなくちゃっ!! こんなのでへばってしまったら、残念で仕方がないところだったよ! これからが、楽しいっていうのにさぁ! さぁ、俺と一緒にさいこーっのパーティーを始めようぜ!!」
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
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