―10― 乱入
「いつの間にか寝てたな」
起きて直後、周囲の安全を確認する。
いつもなら安全であることを慎重に確認してから寝るようにしてるが、昨日は毒に侵されてたせいで周囲の安全を確保する前に寝てしまった。
少し不用心ではあったが、洞穴の中にいたことだし、さして問題はなかったようで、こうして無事に朝を迎えることができた。
「毒のほうも完治しているな」
〈解毒剤〉がちゃんと効いたようで、毒で変色していた腕は元の色に戻っている。
昨日のモンスターに感謝しないとな、と思って周囲を確認するがどこにもいない。
足跡の形跡から、早朝にこの洞穴を出て行ったようだ。
ということは、あのモンスターの傷も無事癒えたってことか。
さて、回復もしたことだし改めて狩りをしに行こうか。
そう思い、俺は洞穴を出て森の中を進んだ。
「みーつけた♪」
歩くこと数時間。
標的を見つけたので、うれしくなった俺はそう口にしてしまった。
モンスターに感づかれないようにもっと慎重に行動しなきゃいけないはずなので、反省反省。
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〈巨大蜘蛛〉
LV:102
糸を全身にまとわせた巨大な蜘蛛。
糸をたくみに操り高速移動する。
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鑑定結果を見て思わず、笑みを浮かべてしまう。
レベル100オーバー。
今までの敵に比べたら、何倍も格上のモンスターだ。
これと今から戦えると思うとそれだけでゾクゾクしてしまいそうだ。
「さて、それじゃ一撃目を当てようか」
そう言って、俺は弓を引く。
使うのはただの弓矢ではない。
まず、猛毒を持つカエルから採取した大量の〈毒液〉に対し、レベル4の〈調合〉スキルを使うと、〈毒液〉が何倍にも濃縮された強力な〈猛毒液〉が完成する。
その〈猛毒液〉と〈矢〉に対し〈加工〉スキル使うと、〈猛毒矢〉が完成するわけだ。
そう、俺が今から弓で放つのは〈猛毒矢〉。
巨大蜘蛛が毒に対する耐性が低いのは、『ゲーム』にて確認済みだ。
だから、この一撃は非常に有効打になりうる。
「さぁ、ゲームスタートだ」
そう言って、矢を放った。
ザシュッ、と矢は巨大蜘蛛に刺さる。
矢のダメージはほどほどだが、毒のダメージは無視できないはず。
「キシャァアアアアアアアアアアア!!」
矢が当たった巨大蜘蛛は金切り声のような鳴き声を鳴らす。
そして、矢が放たれた先、つまり俺の位置を捕捉した。
「はやっ」
巨大蜘蛛が一瞬で俺の位置まで移動してきた。
巨大蜘蛛は戦闘時、特殊な移動方法を用いる。糸を遠くに飛ばして地面や木に粘着させ、その位置に自分を引き寄せる。
そんなワイヤーアクションのような移動方法を用いて、敵に一瞬で接敵する。
まぁ、『ゲーム』で予習済みなため驚きはしない。
敵の動きがある程度読めれば、避けるのも不可能ではない。
そして、敵の動きを読むのは俺にとってそう難しいことではない。
だって、『ゲーム』で1度戦ったことのある敵だから。
「うわっ!」
とはいえ、非常にギリギリだ。
コンマ一秒、反応が遅ければ攻撃が当たっていたに違いない。
これを後何回も繰り返さなきゃいけないのか。
一撃もらうだけでも、レベル1のせいで耐久値が紙以下な俺にとっては致命傷になりうる。
だから、攻撃を一度ももらってはいけない。
その上、隙をついてはこっちから攻撃する必要もある。
そう考えたら、倒すのは非常に難易度が高い。
「いいねぇ、最高の展開じゃん」
だからこそ、俺の心は燃える。
ギリギリの攻防。
まさに、『縛りプレイ』の醍醐味だ。
◆
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」
さっきから自分の呼吸音がうるさい。
どうやら体力の限界が近いらしい。
巨大蜘蛛と戦い初めて何時間経った? 二時間は絶対に経ったな。三時間経っていてもおかしくないか。
「おいおい、全然倒れる気配ないじゃないか」
三時間の間、タイミングを見計らっては〈猛毒矢〉や〈手投げ爆弾〉で攻撃してるんだが、ダメージ量が少ないようで、巨大蜘蛛はまだピンピンとしている。
とはいえ、確実にダメージは与えていってる。
だから、このまま戦い続ければいつかは倒せるはず。
あとは俺の体力がそれまで持つかが問題だが、それは気合いでどうにかするしかない。
恐らく三十分もすれば、毒が全身に回り、一気に形勢が逆転するはず。
だから、それまで耐え忍ぼう。
「グルル……ッ」
かすかに何者かによる鼻息が聞こえた。
「誰だ……?」
そう口にして振り向いた先――
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〈大顎ノ恐竜〉
LV:285
獰猛な肉食モンスター。
その全長は10メートルを超す超大型。
強力な顎であらゆるモンスターを引き裂く。
生態系の頂点に達する。
△△△△△△△△△△△△△△△
「おい、どうなってやがる」
この森に大顎ノ恐竜がいるなんて聞いていない。
「ガルルゥウウウウウウウウッッッ!!!」
喉を鳴らした大顎ノ恐竜は巨大蜘蛛に飛びかかり、そして噛みちぎった。
俺があれだけ苦労して倒そうとした巨大蜘蛛を一瞬で倒してしまったのだ。
レベル285。
今までのモンスターより格が明らかに違う。
どう見てもレベル1の俺が敵うモンスターではない。
でも、なぜだろう?
「ぐへへっ」
さっきから笑いが止まらない。思わず、変な笑い声がでてしまうほどに。
「いいねぇ、想定外の乱入モンスター。これだから『縛りプレイ』はやめられないんだよなぁ」
そう言って、俺は《猛毒液》を表面に塗ったナイフを構える。
「さぁ、最高のパーティーを始めようか!」