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彼は真面目な学生でした。堅物で少し変わり者でしたが勉強がそこそこできて真面目な学生でした。彼には好きな人がいました。始めての異性の友達でした。ある時彼女の進路を聞きました。同じ志望校でした。その時彼は決めたのです。「あの子と同じ高校に入ろう、そしてその時は告白しよう」と。しかし、彼には内申が足りませんでした。運動や絵は苦手だったのです。だから彼は必死で五教科で補おうと、勉強を頑張りました。ゲームをやめ漫画を閉じ、塾にも通って一生懸命勉強しました。
学年最後のテスト、彼は英語で学年30位でした。100人中ではありません。300人中でした。彼は思いました。これは「5」が貰えると。これで内申が足りると。そう思っていました。
「4」でした。訳がわかりませんでした。塾の先生も首を傾げました。勿論抗議しました。けれども何も言ってはくれませんでした。彼は泣きました。枕にうずくまっておんおんと泣きました。しかし、誰も彼を慰める人は現れませんでした。
その日から彼は変わりました。勉強をやめてしまいました。目標だとか夢だとか、そんなもの目指すだけ無駄だと感じてしまったのです。しかし、親は許しませんでした。
「勉強しろ、なんで勉強しない?」
だって我慢して我慢してその結果があのザマですもの。夢は形を変えていく。とは言いますが、彼にはそうやって変わるだけの器用さと強さがありませんでした。
勉強「しない」なら、というので親は勉強を「させる」ことにしました。要するに監視するという事です。それは逆効果でした。恐怖の大王が見つめるようなその眼差しは彼の心を巣食ってゆきました。何度も動悸がしました。頭を抱えました。お腹も痛くなりました。追い詰められるうち、彼の心には「どす黒いもの」が生まれてゆきました。そうそう、彼の好きな人の進路について話をしてませんでしたね。彼女は結論としてその高校に落ちました。彼の頑張りは結局無駄だったってワケです。
「どす黒いもの」。いつからそれが彼に現れたのか、彼にもわかりません。けれど確実に言えるのは、それは人の心にあってはならないものでした。あそこの美人の首を切り落とそうか、こめかみをぶちまける感覚はどうなのか_
彼は理性によってそれを抑えていました。だから、あの心が分からない夫婦が気づくことはありませんでした。ゆえに、2人は勉強を押し付け続けたのです。
彼には2人の妹がいました。彼女たちは明るい性格で気が利き、何よりも頭がよかったのです。親たちの興味は2人に向きました。結局、彼らが勉強させようとしたのは自己顕示欲とかプライドそういうくだらないものだったのです。そして何よりも2人は意味もなく「彼」を嫌いました。兄妹仲が悪いとかっこいいと思ったからでした。
彼は家族が嫌になりました。プライドの塊の親と、意味もなく兄を嫌う妹。家は針のむしろでした。何度も死のうかと思い、自殺方法も検索しました。けれども根本で、彼は死にたくありませんでした。だから彼は死ねませんでした。彼が、この地獄から脱出する方法はいくつかありました。どこか遠い場所に行くこと。さっさと死ぬこと。_そして、家族を殺すこと。
彼は家族を殺すことにしました。皆が寝静まった夜、彼はカッターナイフを引き出しから取り出しました。まずは父親の首を突きました。次に母親を、そして妹を、父親の時と同じように突き刺しました。そして「どす黒いもの」に従って、妹の首を、中学の技術の授業で買ったノコギリで切り落とし、父母のこめかみにドライバーをなんどもなんども突き刺しました。全て終わった時、彼は気づきました。自分が泣いていることに。それがどうしてか、彼はわかりませんでした。
夜の帳が開け、彼は自転車で警察に自首しに行きました。殺しは大きなニュースになりました。無論、彼は刑務所に行きました。彼はきっと地獄に行きます。それもとびきりの。彼はどうしたかったのでしょう。どうしてくれたかったでしょう。彼しかそれはわかりません。