81、外征任務(1)
その日は早めに夕食と風呂を済ませ、部屋に戻った。
慶一は夜は大体いつも明かりをつけない。本を読むときだけデスクランプをつけていた。何もしないで暗闇の中をぼーっとしているのが好きだった。それは月乃にいた頃からの変わらない習慣だった。
門灯と街灯の明かりだけが部屋の中に差し込んでくる。だが今日はそれだけではないようだ。
座卓の前に座り、障子窓から外の様子を見下ろしてみた。
雨が上がったばかりで敷地の中には靄が立ち込めていた。仕事終わりで帰ってくる人の姿が見える。夜の薄暗闇の中、通りを歩く人の照明魔法がぼんやりと路上に白く浮かび上がっていた。それが少し離れたところにぽつぽつと灯っているのが二階から見下ろせた。動く明かりと動かない明かりは同じ大きさで何かの儀式みたいに靄の中を漂っていた。
小説は部屋にあるものはあらかた読み終えてしまったので、仕方ないから本部建物の談話室の本棚から何冊か選んで拝借してきた。代わりに読み終えた「海賊の娘」の三冊を本棚に入れた。
部屋でやることは暗がりの中で窓の外を眺めているか本を読むかぐらいだったが、特に退屈はしなかった。あとは考え事をするくらいだ。そろそろ内職ばかりではなくて仕事もしなくてはならないと空丸が言い始めた。外地の探索に行くようだ。慶一も同行することになった。それが明日から始まる。
布団も敷かずに座卓の前で横になった。隣の住人は鬼火用に大きめの土鍋を買ったようだった。暖房代わりにしているらしい。だいたいここの住人は何らかの方法で鬼火を部屋に焚いている。源力の使い手は滅多にいないようで慶一は特に必要としなかった。貰い物の酒で体を温めるくらいで十分だった。
何気なく携帯端末を手に取って見てみた。朱里からの最後の連絡は秋にあの洞窟に行くときのメッセージだった。あとは外壁を焼き払うときに一度だけ通話しただけだ。義一からも連絡はない。
携帯端末には救助や相談を受け付けるダイヤルがあり、そこに音声を入れることで相談相手と繋がることができる。
蒼い庭園はその利用者の顧客情報を持っており、主に外壁に関する相談や救助を担当していた。
朱里も以前にその番号に相談内容を登録しており、それを見つけたライという少年と繋がっていた。
慶一はそのことは知らない。朱里がそこまで深刻な状況に陥っているということはずっとわからなかった。そのこともあり、慶一は罪悪感を感じていたのだった。
足跡はまだ残っている。すぐそばに朱里がいるような気がした。遠く離れていても寂しくないのはこれだけのおかげだった。
慶一はそのまま眠りについた。
その夜遅く、一通のメッセージの着信があった。義一からの連絡だった。
“朱里の状態がよくない。帰ってきてくれ”




