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79、虚空の檻

 戦いが始まる。


「二人は下がっていろ」


 里縷々と里無瑠を後方へ追いやると冬士郎は一歩前へ出た。

 暗がりに十人前後の人影が固まっているが見える。


「どう出てくるかわからない。スキルは使うな」


「当然でしょう」


 相手の影がまず最初に動いた。一番前に出ていた男がこちらへ近づいてくる。

 長身の男だ。尖った肩が僅かに揺れる。右腕に何かをしたようだ。


 影がぶれたと思った瞬間、相手は間合いを一気に詰めてきた。狙いは駆のようだ。慣れた動きで右腕の内功を高めて振ってきた。駆は受け身で応じる。


 ズバッ


 鮮血が上がる。

 裂傷を受けた。源力を込めていなければそのまま腕を持っていかれているところだった。


「大丈夫か」


「よくわからない攻撃だな」


 攻撃の勢いで後方へと飛ばされていた。斬と打の両方の性質を持つようだ。


 犯自由技能【壊刀(カイトウ)】。

 源力(ロドーラ)を纏った攻撃は淡い光を放つ。斬と打のバランスを自由に決められるウラノスの右腕が薄闇の中を白い尾を引きながら揺れていた。


「手加減なしのようだ。こちらも少しきつめにいこう」


「わかりました」


 駆は落ちている石片の中から手ごろなサイズのものを拾った。そしてそれを右手で逆手に握る。

 そして懐中時計を胸ポケットに忍ばせた。秒針がひどく音を立てるやつだった。


 源力を加速させる。スキル判定は正。

 内功到達点をその目的のスキルまで引き上げた。


「オオオ!!」


 ゴオ


 数メートル先のウラノスに襲い掛かる。

 相手は構え、初撃をガードされる。しかしかまわない。

 連続攻撃の態勢に入る。


 チッ、チッ、チッ


 秒針が刻むリズムに合わせて寸分の狂いもなく攻撃を入れていく。相手は両方の手で防ぐか回避行動を取っている。しかし、それは問題ではない。大事なのはこの間隔を少しでも狂わせないことだ。

 たいした攻撃ではないようだ。そう判断した相手が反撃の姿勢を取った、そのとき。

 攻撃は七、八手目に入ったところだった。


 ゴッ


 相手のガードを突き破り、左脇腹に攻撃がめり込んだ。

 致命打(クリティカル)だ――。

 体を歪ませ、遥か右後方へと吹き飛んだ。


 一番短剣技【懐中時刑(タイマーチェンジ)】。

 秒針が刻む音に合わせた連続攻撃は次第に威力を増し、やがて一定回数以降の攻撃を致命打(クリティカル)へと変える。


「ガハッ」


 相手が地に手をついたまま血を吐いた。内臓にまでダメージが届いたようだ。


「おい、降参しろ。お前たちの目的はなんだ」


 目の前に立ち、見下ろしながら駆が言う。しかしウラノスは不敵な笑みを浮かべるだけだった。静まり返った荒野に不釣り合いな秒針の音だけが響く。

 そのとき。


「きゃっ」


「何?」


 奥で控えていた二人が声を上げる。

 気がつくと一人の男が里縷々の両腕を掴んでいた。

 男は気配を消したまま二人の背後へと回っていた。


「動くな」


 パーンはそう言うとウラノスへ向かって合図を送る。

 形勢が逆転した。

 ウラノスはゆっくりと起き上がると今度は無抵抗になった駆へ向かい壊刀に力を込めた。


 ゴッ


 打の属性を最大にして殴りつけた。血が飛び散る。


 ゴッ、ゴッ、ゴッ


 続けて殴打を浴びせ続ける。駆は守りのために源力を最大まで高めているが、その上から段々とダメージが募っていく。

 見かねた冬士郎が左目に手を当てた。


「仕方ないな」


 手を外したとき、顔の痣が赤く染まっていた。

 銃技ディスオーダー【眼砲(がんほう)】。

 スキルの戒めを解き、それをウラノスに浴びせかけた。


 ガアン


 激しい反動を冬士郎も受け、身を仰け反らせる。

 ウラノスは正面から眼砲をまともに体幹部に受け、その場に崩れ落ちた。


「何だ?」


 パーンが狼狽える。

 こちらは誰一人動いていない。何が起きたのか状況が飲み込めないでいると、遠くで一人の女性が右手を高く上げた。

 カミラ・ダリルだ――。


 カミラが右手の指を鳴らすと、乾いた音が夜空に響き渡った。


 次の瞬間、ウラノスとパーンの位置が入れ替わっていた。星界(バーチャワールド)専用の、カミラだけが使える転移魔法だった。


「やれ」


 低い女の声が響いた。


 ウラノスが何とか起き上がり、里縷々の前に覆いかぶさるようにして右手を掲げた。


「――!?」


「待て!」


 しかし遅い。

 里縷々の右腕は前腕部を弾き飛ばされ、宙に舞っていた。


「こ、の野郎!!」


 散々やられていた駆がついに頭に血を上らせ、スキルを発動させた。


 炎、地属性ディスオーダー【隕石(アンガーボム)】。


 岩石を掴んで放り投げる。

 それは巨大なエネルギー球となり、敵の陣地目がけて落ち始めた。


「ブッ殺してやる!」


「待て! 駆」


 ゴゴゴゴゴゴ


 巨大な隕石が敵側の地面目がけて落下する。まるで昼間に逆戻りしたかのように周囲を照りつけていた。しかし、そのとき――。


 カッ


 乾いた音と共にエネルギーが掻き消えた。

 岩だけが虚しく地に落ちる。

 そして、次の瞬間。


 ドスン


 重圧が辺りを覆った。


 外門スキルだ――。


「やはり、これを狙っていたか」


 男が呟いた。


 遥か遠い崖の上に一人の人影が佇んでいた。


「釈迦。ついに来たな」


 辺りは暗い雲に覆われ始めていた。

 朧な月が見える。

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