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77、休暇

 二人は灰灯(パイロット)が消えるまでその場所にいた。戦いは一方的とも思えるほどで蒼い庭園の軍勢に追い詰められた魔神二体はやがて倒れて姿を消した。遠く離れた場所で一部始終を見ていた二人はそのすぐ後に灰灯(パイロット)の効果時間が切れた。

 慶一から聞いていた駆や冬士郎の姿は探したが見つからなかったと言った。また、これ以上この場所に来てもこの姿のままではとても役には立てないだろうと言った。慶一もそれを了承した。

 駆には悪いが戦力にはならない。もし何かあったときはまた言ってくるだろうということでこちらからは何も言わず連絡を待つことにした。


 それからは普段通りの日々がまた続いた。

 年が明けてすぐの間は、宿舎は人気がなく閑散としていた。食堂にもほとんど人がいなかった。その代わり本部建物の一階に炉が用意され、寒さが厳しいため火属性魔法七番の【鬼火(おにび)】が灯されていた。職員が用意したのか、寮生が焚いたのかはわからないが、炉のとなりに端材のたくさん入った箱があり、慶一も火種をもらって部屋に持ち帰ることにした。鬼火は延焼もなく、とても暖かくて水をかけるとすぐに消えるので、寒い地方では重宝されているスキルだ。部屋に入るとコンロの上に鬼火の青い炎を焚き付けごと置いた。これだけで部屋は大分暖かくなった。

 夕方になると、慶一は屋上へと上がり干してある洗濯物を取りにいった。たいした量ではなかったが、できるだけこまめに洗うようにはしていた。洗濯ロープに吊るされた洗濯物が夕暮れの風に揺れていた。すぐそばでは誰かが取り込み忘れたシャツが同じように風にたなびいていた。手すりの向こうでは街灯に明かりが灯り始めた街並みが一面に広がって見えた。

 部屋に戻ってくると、慶一は座卓に置いてあった本を棚に戻した。この休暇の間に結局、「海賊の娘」の全三巻を読み終えていた。たいていの場合、こういうときはどれか一冊が抜けていたりするものだが、前の住人が全三巻を揃えていてくれたことに慶一は感謝した。続いて今度は打って変わって恋愛小説と思われる「君の横顔。」を手に取った。一時期、映画にもなり巷を賑わせていたやつだ。月乃村には映画館はなかったが、慶一も名前だけは知っていた。前の住人はなかなかセンスのいい小説を揃えていると思った。これならしばらくの間は退屈をしなくて済みそうだ。

 小説を読むのはいつも夜だった。昼間はかたちだけでも冒険者ギルドに通った方がいいと言われ、それに従っていた。いつもだいたい本部二階の仕事部屋前広間で外地の開拓の結果報告や、たまに雪代恵を交えて都市計画の話し合いなどをしていた。「これも一応仕事になる。内職だ」と空丸に言われた。


 何日か経ち、駆のことが気になったが、あの世界では例え死んでも現実世界では怪我も負わないはずだと空丸と由瑞から言われ、深刻な事態には至らないだろうと思うようにした。それよりも心配なのはやはり朱里のことだった。義一からも連絡はないから大丈夫だろうとは思っていたが心のどこかではいつも気になっていた。頼りになるのは朱里の足跡(トレール)だった。これを感じる限りは朱里は生きている。肩の光はもう消えてなくなってしまっていたが、そこには間違いなく朱里の気配が感じられた。


 夜になると慶一はまた小説を読んだ。デスクランプの明かりだけにして、ふと今までに起こったことを一つ一つ思い出して辿ってみた。月乃村を出てから色んなことが起きた。賊山に登り、牙途に行き、生まれ故郷の井黒を訪れた。ずいぶん長いあいだ旅していたような気がするが、実際にはまだそんなに経っていない。そう考えると、月乃の家でもない場所で、今こうして穏やかに暮らしていることが何だか場違いな気分になったが、慶一はここでの暮らしは嫌いではなかった。

 部屋で静かにしていると、隣の部屋からトントンという小気味のいい音が聞こえてきた。隣には若いギルド職員の娘が住んでおり、よく自炊をしていた。


 夜遅くなると、慶一はブランデーをコップに注いて一口飲んだ。雪代恵がギルド本部に来るときだいたい酒を差し入れで持ってくる。配給だと言って空丸から酒を一瓶もらっていたのだった。

 コンロの鬼火はとっくに消えていたが寒くはなかった。慶一は夜遅くまで小説を読んだ。

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