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76、夜空の力

 翌日、慶一はギルド本部へ行くと空丸に昨夜の話を伝えた。

 空丸は珍しく自分の仕事部屋に籠っていた。


「何だか胡散臭い話だな。聞いたことがないぞそんな世界があるなんて」


「俺もそう思います。でも向こうでは大分困っているみたいなので」


「とりあえず試してみるか。戦力が必要なら由瑞も呼んでおこう」


 そう言うと空丸は携帯端末で由瑞を呼び寄せた。

 待っているあいだ、空丸と雑談をして過ごした。お互いの源力の話になった。


「俺は子どもの頃、一度死にかけたことがある。親は冒険者にはするつもりはなかったが、源力は身につけさせたかったようでそういう機会を伺っていた。とんでもない話だよな、子どもを死にかけさせる機会を探していたなんて」


「何があったのですか」


「調理場の冷凍室に閉じ込められた。調理の手伝いをするように言われ冷凍室に入ったところで錠をかけられた。何が起きたのかわからなかった。叫んでも叩いてもドアは開かなかった。マイナス20度の世界だ。数分で体が凍っていくような気がした。しばらくして手足が凍傷になりかけた。末端部分は自分のものじゃないような感じになり、段々心音も弱まっていった。花がしぼんで枯れていくような感じで、命が段々中心に向かって弱まっていった。俺は死ぬんだと思った。そう思って死ぬことを受け入れたとき、体の中心部に熱が湧いたのがわかった。それは段々強くなり、体がしぼむのを押し退けていった。やがて全身まで熱がいきわたり、体の凍りが解け、周囲まで熱せるくらいになった。気がつくと冷凍室のものを全部溶かしていた。コンプレッサーも壊れてしばらく冷凍室は使えなくなったな。十二歳のときだったかな。それ以来そのときの感覚を忘れないようにして今の明後日(アサッテ)に繋いだ」


「そうだったんですか」


「お前はどうなんだ?」


「俺はそういう経験はないです。ただあまり子どもの頃のことは覚えていなくて、そのあいだにそういう目にあった可能性はあるかもしれません」


「そうか、まあお前は育ちが複雑みたいだからな」


 やがて由瑞が二階へとやってきた。外へ行こう、と言って三人はギルド本部の訓練場へと向かっていった。



「では、始めるか。灰灯(パイロット)を発動させればいいんだよな?」


「はい」


 そう言うと二人に詠唱の内容を教えた。


「ではやるか」


 ――対岸の地底から湧く木々の産声、半刻の迷える魂、河鹿躍る清流の、星界に通じる門、岸辺に開かれる。


 二人は芝草の上に座り、目を閉じて唱えた。風が吹き抜けたような気がした。

 やがて二人の意識は遥か遠い別世界の荒地帯へと移っていた。


 まだ昼前だったにも関わらず、そこは薄暗い夕闇の中だった。空には月が出ている。しかし、月というにはそれはあまりにも明るかった。青白い光に自分の姿がくっきりと映し出されているのがわかる。


「何だ、これは」


 自分の体を確認してみる。手は獣の手だった。隣にいるのは由瑞だ。しかし、その姿は由瑞ではなかった。


「お前、由瑞か? 狸になってる」


「お前こそ、狐にしか見えん」


 二人が困惑していると、遠い夜空から声が聞こえてきた。


「大丈夫ですか?」


「慶一か?」


「はい。狸とか狐って、どういうことですか?」


「俺たちの声が聞こえるのか。現実とごっちゃになってるみたいだな」


 どうやら空丸と由瑞は座ってる場所で目を閉じたまま声に出して喋っているようだった。その場にいる慶一ともここで会話ができた。


「どうすればいいんだ。なあ、慶一。戻り方わかるか?」


「あ、そういえば、聞いてませんでした」


「おいおい。どうするんだ。まあ灰灯(パイロット)の効果が切れればきっと戻れるんだろう」


 二人はとりあえず辺りを確認してみることにした。

 遠く左の方には林があり、その手前には川がある。右には断崖絶壁の崖がそびえ立っていた。空気はひんやりとしており現実世界と変わらないくらいの寒さだった。

 すると突然、狼の遠吠えが上がった。崖の上に一匹の狼の姿があった。


「狼だ」


「狼?」


「荒野の中に一匹の狼がいる」


 それを聞いて慶一はある記憶に行きあたりそうになった。


 すると今度は人影が現れた。ニ、三人、荒野に黒い人影が見える。見たことのない不思議な恰好をした人影だった。


 その直後、大きな巨体が二つ、地面と空中から現れた。人の形をした巨体だった。その巨体を目がけて、一つの人影が身を躍らせた。

 空中で身を翻すと、人影は空にいた巨体の右腕を弾き飛ばしていた。右腕は地面に落ちる瞬間に爆発して弾け飛んだ。もの凄い爆風がここまで届く。


「く、何だ。急に戦闘が始まったぞ」


 大気が熱を帯びた。かと思った次の瞬間、もう一つの人影が手をかざし、防壁を張って爆風を防いだ。それはとんでもなく凍てついた波動だった。やがて激しい攻防が繰り広げられた。


 狼が隙をついて大木を三本、巨人に向けて落とした。そのうちの二本が巨人に突き刺さる。大木は回転を始め、巨人は掴んでいた一人の人影を放し、大木を粉々に打ち砕いた。衝撃が狼の元に届く。狼はダメージを受け、新たに現れた数人の人影が狼の元へ駆け寄った。


 これは紛れもなくあのときの光景だった。

 空丸から伝えられる状況の説明に、慶一はそれを確信した。


 あのとき見た夢の光景だ。


 何故、自分が見た夢の一部始終が、今遠いスキルの異世界で繰り広げられているのか、慶一にはわからなかった。


 ――ブリルエネルギー。


 それは慶一の持つブリルエネルギーの力だった。

 慶一のブリルエネルギーはこの世界の未来を垣間見ることができる。


 魔神二体と蒼い庭園の勢力は、今、スキルの世界で戦っていた。

 魔神の涙と言われる雷砲がある。

 地面についたらこの星界は終わる。カミラには耐えられないことだからだ。


 駆と冬士郎はどこにいるのだろうか。空丸からの報告ではそれ以上のことはわからなかった。


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