73、休息(3)
白井冒険者ギルド本部の二階、冒険者たちの仕事部屋が並んでいる広間の真ん中の長椅子に空丸が腰かけている。
「一美、暇だな」
「私が暇なように見えますか?」
一美は本棚の周りをせかせかと動き回っている。
「見えない」
「だったら話しかけないで下さい」
「……」
テーブルを挟んだ向かいでは雪代恵が煙草をふかしていた。部屋の壁に海辺を映した写真が貼ってある。外地の遠い外れの方には海がある。協会所属だった冒険者が撮ってきた写真のようだ。遠野一美はこの写真が好きだった。一度は海を見てみたいと心で思っていた。窓から差し込んでくる光だけで明かりはついていない。少し薄暗い部屋の中で雪代が遠慮なく煙草の煙を吹きかけてくる。
「あんた一人で抑えたようだな」
「人手不足なので」
今回の戦争のことを問われた。
「終わったからいいけど、もう少しやり方を考えた方がいいな」
「ギルド長に言って下さいよ」
白井では冒険者を養成する学校は高等学校の紫学校を五藤家が管理しており、優秀な卒業生は五藤家が全て抱えている。しかし、源力の使い手は野良が多く、学校の卒業生にはほとんどいない。慶一の場合がそうだったように本国外の領地から送られてくる申請書類を一枚一枚チェックして源力使いを探しているのが現状である。
「市長が思いとどまってくれたからよかったものの」
「……」
戦争が終わったことを知って、五十六は飾蒲生の件をまた保留にした。国を空けるわけにはいかないと判断したためだった。
別の事務員が二人にお茶を運んできた。
「空丸様、吾妻慶一さまがお見えですが、いかがなさいますか」
「慶一が? すぐに会いに行こう」
事務員の後に続いて空丸が席を立った。
「誰だ?」
「うちの新しい冒険者です。訳あってしばらく井黒に行ってました」
「ああ、あの型抜けか。五藤露九戊が気にしていた」
そう言うと空丸は部屋を後にした。一階へ降りて応接室で慶一と再会した。
「よう、久しぶりだな」
「お待たせしてすみませんでした。戦争は終わったのですか?」
「そうだよ、由瑞が連絡しなかったのか」
「ここに来て知りました」
由瑞はここに来てから直接会って伝えるつもりだったのだろう、と説明した。
「……空丸さんは二人とも呼び捨てなんですね」
由瑞と深山のことを言っているようだ。
「昔からだよ。俺はガキの頃からあの二人とは馴染みがある」
「そうなんですね、俺にはとても」
「そうか? お前はもう少し砕けてもいいと思うぞ」
しばらくは井黒での出来事などを報告して聞かせた。
「まあ、そういうわけだから、しばらくは暇になる。お前はこれからどうする」
「特に予定はありません」
「だったら、一つ提案なんだが、今からスキルを学んでみる気はないか? 今ならまだ間に合うような気がするんだ」
「定型技能をですか?」
「そうだ。教えるのは多分由瑞になると思うけど、定型はあいつが一番強い」
とりあえず慶一はその案を受けることにした。しばらくの間は宿もギルド本部の宿舎に泊まるよう勧められた。そういうわけで翌日から本格的なスキル訓練を受けることになった。




