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72、休息(2)

 協会専属病院二階。夜になり、永崎は一人、病院の大浴場の前に来ていた。患者は老人が多い。永崎と同じくらいの年の者も中にはいるが少なかった。脱衣所で服を脱ぐ。普段は麻の簡単な服を着ている。

 洗い場で湯を使う。いつまでこんな生活が続くのだろう、とため息を吐いた。永崎は住む家を数年前の災害で破壊され、それから病院で寝泊まりしていた。後遺症も心配されたからしばらくいた方がいいと由瑞に言われたからだ。冒険者としての稼ぎは頼りなく、家を借りるまでにはいかない。いっそどこかに嫁いだらいいだろうという声もあるが、それも気が進まない。永崎は人と関わるのが、特に男が苦手だった。由瑞はあの調子で朴訥としており、声を掛けられる気配はなかった。

 湯から上がると体を拭いて寝巻に着替えた。病院内は薄暗い。暖色の照明が僅かにあるのみだ。観葉植物も色々なところに置いてある。雰囲気はそれほど悪くはない。個室の病室へと戻る。

 部屋でくつろいでいると、看護師がノックして訪ねてきた。


「加奈ちゃん、こんな時間だけど、面会来てるわよ」


 はい、と返事をして面会室へと向かった。寝巻のままだったが、相手は誰だか察しはついていたから構わなかった。

 面会室に入ると、由瑞が座って待っていた。


「遅くに悪いな。やっと時間が取れた。ずっと忙しかったからな」

「そう」


 素っ気ない返事をする。永崎に面会に来るのは由瑞だけだ。普段は携帯で連絡を取るが、ときどきこうして面会に来る。仕事の繋ぎで何度かだけ、深山が来たこともあった。


「少し外に行くか」

「寒いよ、上着持ってくる」


 年の暮れで外は寒い。永崎は厚手のコートを上に着こんだ。由瑞は相変わらず長袖のシャツに黒のズボンだけだった。冒険者は皆厚着をしないような気がする。動きが悪くなるからだろうか。それとも源力は体を温める効果もあるのだろうか。永崎は由瑞の少し後ろを歩きながら玄関を抜けて外へ出た。そのまま中庭まで行き、ベンチに座る。


 木製のベンチは湿っており冷たかった。辺りには少しだけ雪が残っている。


「戦争は何とか終わりそうだ」

「そうですか」

「そっちは特に変わりないか」

「はい」


 いつも通りの会話を交わす。もっと他に何か言うことはないのだろうか、といつも思う。


「もう四年になります」


 少し焦らすような口調でいつもと違うことを思わず言った。由瑞は、そうか、と言うだけだった。


「出たいか?」

「……はい」


 素直な気持ちを言った。すると由瑞は思いがけないことを言った。


「俺も考えてないわけではない。大きな戦いが迫っているような気がする。それが片付いたら改めて考えようと思っている」

「何を?」

「お前をこれからどうするかをだ」


 永崎はそれを聞いて少しだけ安心した。ちゃんと考えてくれていた。具体的なことは言わないがそれだけでも十分だった。


 空に月が浮かんで見える。病棟の方を見るといくつかの部屋で廊下と同じ色の明かりが灯っていた。寝ている者ももう多いはずだ。しばらく二人は黙って座っていた。由瑞とこうしている時間が一番落ち着いた。永崎といえどもやはり一人は寂しいのだった。

 それをわかっているかのように、由瑞はただ黙って永崎の隣に座り続けていた。

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