71、休息(1)
深山は舗装された道を歩いていた。白井からの知らせを受け、帰還の途中だったが、怪我が完治しておらず痛みがひどくなり始めた。これでは長旅は無理だと判断して引き返していた。茜の家に戻るところだった。
「白井が無事だといいが」
南は最近力をつけてきた国だと聞いていた。戦ったことはないが由瑞たちのことが心配だった。
「俺も落ちぶれたものだな」
戦争が始まったから帰還すると言って茜の家を出たのはいいが、怪我が痛むからと言って引き返すのは恰好がつかない。それでも茜の家しか頼るところはなかった。
検問所を通って再び牙途に入国する。番をしている男は牙能徒ではなくて普通の人間に戻っている。IDカードを見せて中へ入る。街の中もすっかり元に戻っていた。まだ午前中で、雪も深く人通りはまばらだが、家の中にも人気が戻っている。煙突から煙の出ている家もある。深山は茜の家を目指した。
呼び鈴を鳴らすと茜が出てきた。
「あ、おかえりなさい」
まるでわかっていたかのように出迎えた。
「すまないが怪我が痛むので引き返してきた。治るまで世話になっていいか」
「もちろん。あの怪我じゃ無理よ。治るまでいて」
どうやらこうなることがわかっていたようだった。両親も心配で待っていたようで迎え入れてくれた。
「国の方は大丈夫なの?」
「わからない。しかし今の俺が行っても足手まといになるだけだ」
そう言うと奥の空いている部屋へとまた案内された。簡易ベッドが置いてあるだけの物置部屋だったが、ここで一週間ほど療養していた。しばらくは一人で過ごしていたが、ときどき様子を見に来る茜と話し、前日くらいからスキルのことを教えてほしいと言われ、その手ほどきを始めたばかりのところだった。
火気が唱えられるのだから、発動原理の似ている照明魔法も覚えられるだろうということで、まずは照明魔法を教えていた。
深山は唐突に茜の右手を握ると、火気を唱えてみろと言った。突然の深山の行動に、僅かに頬を紅潮させながら、意識をスキルの発動のために深めていった。全身に熱気を作り、それを手のひらの一点に集めていく。魔法の資質はそこそこあるように思えた。
「今の要領で、部屋を暗くして光をイメージしながらやるんだ。火気よりは難解だが、慣れれば火気より少ないエネルギーで放つことができる」
夜になってから今日から練習してみる、と言った。
深山は婚約者だった男よりも男振りも上だし、顔立ちもどちらかと言えば好みだった。何より飾蓮真に襲われた一件で、深山を慕う気持ちが芽生え始めていた。しかし、この一週間様子を見たり、話しかけたりしていても、深山は一切そういう素振りは見せず、早く治して帰還することしか考えていないようだった。茜は思い切ってスキルの手ほどきを頼んでみたのだった。
「明日傷が痛まなければ外で物理スキルを教えてやろう。冒険者になりたいならどっちも持っていて損はないからな」
それからはしばらくの間、茜が聞きたがっていた深山の昔話などを話して聞かせた。等欠損は茜相手には現れないようだった。
そのとき、突然携帯が鳴った。由瑞からだった。戦争は休戦になりそうなので怪我の治療を優先させていいとのことだった。
「よかったね」
そう言うと茜は、両親が仕事に出かけたあと買い物に行き、夕食の支度をするために台所に向かい始めた。




