8、繋いだ手
地面が陥没している。
大地が何かに押し負けたようだ。まるで隕石か何かに行動を許してしまったかのように地面が抉られ、その真ん中で人影が潰されていた。
どうやらこの場の支配者が抵抗の甲斐もなく無惨に破壊された跡のようだった。
そのクレーターの少し遠くで人だかりができていた。
何人かが一人の少年を取り囲んでいる。少年は血だらけで地面に倒れ込んでいた。銀色の髪の少女がその体に手を当て、治癒の魔法を施しているが、少年の体がそれに応えてくる気配はなかった。
「ヴェリス、蘇生に切り替えた方がいい」
「はい」
「このままでは死んでしまう」
少女は、治癒魔法を上位のものへ切り替え、両手で損傷部位を再生していく。しかし出血が多すぎて間に合わない。上位の治癒魔法は少女に大きな負荷と代償をもたらす。数日間一切のスキル使用が不可能になる。
回復を一手に引き受ける少女のそれは、彼らにとって致命的となる。そのとき。
「ジュエース様!! この黒こげ、やっぱり梵天です!」
クレーターを下まで降りてゆき、真ん中でうつ伏せのような形で地面に張り付けられたまま壊されている人影を見下ろしながら赤い髪の少女がそう言った。
「梵天? え、ていうかこれ……、弥勒だぞ」
――――!
周囲がどよめき、全員がそちらの方を見た。
赤い髪の少女の言葉を聞いてあとに続いて降りていった別の少年がそれを分析していた。
梵天の第三付随、弥勒。
いつからかこの世界はその得体の知れない敵性体の侵攻を受けるようになった。
どこから来るのかもわからず、対抗の手段もほとんどなかった。
唯一の対抗手段が、源力と呼ばれる不思議な力を持った人間たちだった。
その生き残りでもあるこの瀕死の少年は、別の世界ではとあるスキルとして扱われていた。
ライという名の少年は、ある夜、遠く空の彼方で声を聞いた。
――たすけて、怖い。
深い暗闇の中で、うずくまる一人の少女の声に彼は手を差し伸べた。
少女はその手を掴んだ。
スキル【解読】。
その獲得の瞬間だった。
少年は息を引き取った。
最後にはヴェリスの蘇生を拒んだように見えた。
スキル「解読」は死にスキルとなったが、少年の源力は守られた。
ライは、弥勒の攻撃一発を受けただけで源力を使い果たした。
弥勒はジュエースが数ヶ月かけてようやく敵陣の奥深くまで追いやることができた梵天だ。
源力を根こそぎ持っていかれたライは、そのあと精神も恐怖の底へと叩き落とされ、抗う力はどこにも残されていなかった。
そのとき、空から突然現れた激しい炎と隕石が弥勒を極楽ごと焼き払った。
目の前で見ていたライは、それがあのとき繋いだ手のすぐそばからやってきたことを知った。
怖がることはない。
俺が死んでもあとに続くみたいだ。
そうしてライは、繋いでいた手を離した。