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66、夜空の星

 ルッツが帰還した。バンビ教の聖堂がある森羅中央区。

 季節は冬だ。外套を着こみ、数名の部下と共に帰還した。聖堂の庭に葉を落とした夜合樹(ネム)の大木が見える。敷地の周りは野ばらの生け垣が覆い取り囲んでいる。地面には手入れされた芝草が広がっていた。

「ルッツ! 無事だったか」

 入ってすぐの大広間は団員たちの作業場兼休憩室になっている。部屋の中でヴィンセントに呼び止められたが、返事もなく奥の執務室へ向かった。

「怪我してるのか。まず救護室へ向かえ」

「いい、アーレス様はいるか」

「アーレス様なら奥の部屋にいる」

「そうか」

 それだけを言うとルッツは部屋の奥の廊下へと向かった。


 しばらくしてアーレスの部屋の前まで来ると、扉をノックして訪いを入れた。

「アーレス様。ルッツ、戻りました」

「入ってくれ」

 部屋の奥からアーレスの声がして、応えるように扉を開ける。


「無事だったか。よく戻った」

「部下を失いました。申し訳ありません」

 俯いて告げるルッツに、お前だけでも無事でよかった、とアーレスは言った。


「冒険者数名と接触しましたが、手に余る脅威です。話に聞いていた通りでした」

「わかっている。向こうは前線を進行させる気配はない。次は私から父を説得してみるつもりだ」


 そのとき、執務室の扉が再び勢いよく開き、団員が血相を変えて飛び込んできた。


「アーレス様!」


「どうした?」


「エリオス王が、亡くなられました……」


「何だと!?」


「……」


 慌ててルッツが聞き返す。


「いつのことだ!?」


「先ほど、自室にて自裁なされました……」


「そんな、馬鹿な」


「……何か言伝はあったか?」


「いえ、それが、何もありません」


 部屋に沈黙が流れる。


「ルッツ、ここは頼む。私は直ぐに王宮へ向かう」


「承知いたしました」


 突然の訃報。翌日歿したエリオスに代わりアーレスが次期国王になるための準備がなされた。

 エリオスは病死と公表された。


 エリオスの死因は失血死だった。傍らに匕首(あいくち)が落ちており、右腕の肩から前腕までを何か所も切り付けた跡があり、直接の死因は脇の下の切り傷だった。そして、不思議なことに、エリオスの右手の掌には見たこともない奇妙な球が嵌っていた。球は割れており、これが一体何を意味するのかは、死後の状態からはわからなかった。


 棺に納められたエリオスの国葬が執り行われた。

 森羅の各地から参列者が集まり、エリオス王の死が弔われた。

 バンビ教の関係者も多数、アーレスの元を訪れた。その中の一人が不思議なことを言った。


「アーレス様。夜空に二つの星が揃いました。ご用心を」


 バンビ教の司祭の中で最も高齢の老師だった。


「一つは天星。もう一つは凶星となるでしょう」



 そして、時は同じ年の十二月。

 アーレスの元にある一通の手紙と小包が届く。


 それは街降祭の前夜だった。

 手紙の送り主はとあるバンビ教の司祭だった。

 包みの中には、不思議な赤い光を放つ小さな球が入っていた。

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