63、バンビオンドアー
コリント式の石柱がいくつも並んで見える。ここ森羅の国教バンビ教の聖堂だ。その下部組織バンビオンドアーが森羅のドメインになる。
百年前の大災害以降、各国は二度と同じことが起きないよう、外地の脅威に対して、共同で戦力を出し合い対抗することを約束した。四大国のそれぞれの戦力の在り処をドメインと呼び、南の森羅以外の三国は冒険者ギルドがそれを担っている。
森羅には弱き者を救済することを教義とするバンビ教が広く知れ渡っている。エリオスの代になってからバンビ教は布教や宗教活動よりも下部組織bodが力をつけ始めていた。それには第一王子アーレスの存在が大きかった。元服を迎えたアーレスがbodの団長に就くと外交や外地政策を行う上で組織の力を次第に高めていった。それまでは四大国の中で戦力としては重要度を示さずに遅れていた平和な友好国であった森羅だったが、今ではアーレス王子一人のためにどちらが上かわからないほどにもなっている。
バンビ教団、聖堂内奥の執務室。
「アーレス様、緩衝地帯において昨日、ルッツ隊が東のドメインの一人と接触したようです」
「そうか」
「戦況は不明ですが、ルッツ隊は全員生存。現在は待避行動を取っています」
「わかった、下がっていい」
報告を終えた女性団員がうつむいている。
「……アーレス様。何故白井と戦わなければならないのですか。戦う理由なんて、どこにもないはずです」
「父の判断だ」
「ですから何故。エリオス様は何故そんなことを」
「……わかっている。私も馬鹿ではないからな」
アーレスは肩肘をつき、書面に目を通している。薬品についての書類のようだ。
やがて女性団員はあきらめて部屋を出ていった。
「待っていろ。必ず尻尾を掴んでやるからな」
振り向いて窓の外を眺めた。空には朱鷺色の夕焼けが広がっていた。
執務室を出てすぐの廊下。
「お、ようマチュア。報告は済んだのか」
若い男が先ほどの女性団員に声をかけるが不機嫌そうな顔で素通りする。
「何だよ、機嫌悪いな。ルッツの動向はどうなった?」
「知りません」
そのまま背を向けて去っていこうとする。男は回り込んで正面に立った。
「知らないはないだろう。灰論はお前の仕事だろう。しっかりやれよ」
「何で、何でこんなことしなきゃならないの!? 私は戦争のためにスキルを覚えたんじゃない!」
泣き出しそうな顔で女性団員が言う。
「仕方ないだろう、俺たちは従うしかないんだから。お前、アーレス様にまで泣きついたんじゃないだろうな」
とうとう女性は泣き出して座り込んでしまった。
「おいおい、何やってるんだ、ヴィンセント」
「あ、いや、すまない。悪かったよ、マチュア」
「だがマチュアの言うことも最もだ。白井と戦ってもこちらもただでは済まない。源力を積んだ冒険者は歩く戦闘要塞だからな」
「スキルのLキャストが可能だからな、源力の使い手は。閉鎖陣形が紙切れから防弾ガラスにまでなる」
「源力って、幼いときに死にかけなきゃいけないんでしょう? 私たちには無理よ。冒険者なんて、同じ人と思えないわ」
「この国は平和だったからな。何で出遅れたこっちが戦争をしかけなきゃならないんだ」
「エリオス王が急に人が変わったっていう話だぞ」
「そうなのか? でもそれはまずいんじゃないのか。俺たちは従うしかないんだからな」
「今はアーレス様に任せる他あるまい」
三人は廊下で沈黙する。
エリオス王の出陣要請に自ら応えたのがルッツだった。いつ自分たちも戦地へ駆り出されるかわからない。
次の作戦行動まで、自分たちができることは僅かしかなかった。




