7、殺し合い
洞窟の壁画には技能名の羅列があるだけだ。朱里のライトがそれを照らしている。
慶一の手に入れたスキルは少し離れたところにその名前が刻まれていた。
中心を軸に細長い形で定型技能が天に伸びている。それを囲むように自由技能が周囲に並んでいた。樹の形をしているが、ひどく歪な印象を受けた。
慶一の感覚がそれを自分自身に伝えた。上の方には万魔殿と思われる派生のない単独の技能名が突出してそこに居座っている。しかし、その文字にはいずれからも一切の生気を感じることができなかった。
嫌な感覚は多分このためだろう。
慶一はあの夜の説明の言葉を思い出した。
『最高位の生存スキルは、現在対岸と交戦中。万魔殿の生存スキルが一名減らされるごとに世界樹の清浄効果は失われます。現在、生存が確かなのは無限の直属二名と、伽閃とその配下五名、それに単独で防戦中のスキルが十数体。こちらは名前の確認を取ることができません、救助が必要です。そして最後にこの説明のみとなります』
そう言って説明は上の方に並ぶスキル群の横にそれぞれ「生存」か「死亡」の文字を追って点灯させた。
あのときはまだいくつかのスキルが光って見えたのがわかった。しかし今、目の前の壁画にはそれはほとんど見えない。
一番下に説明の文字が刻まれている。まだ生きているのはこれだけのようだ。
まるで根が生きていれば大丈夫、とでも言わんばかりにそれは全てを支えているかのように見えた。
このスキルは一体何なのだろう。今は何の声も聞こえない。
するとそのとき、突然目の前に黒い影が浮かび始めた。あのときの人影だ。
それは明らかな殺意を持った暗闇だった。動きを見ればわかる。まるで目が見えず、手探りで獲物を探すかのように周囲を這い摺り始めた。
慶一の体は反射でそれを捉えていた。
ゴッ、という音を鳴らし、逆手に握ったハーケンを半身で思い切り壁に打ち込んだ。
さらにそのまま体重を乗せて押し潰そうとした。感触が普通の岩壁じゃない。
影が気を緩めると入ってくる。殺すしかない。こいつが全部殺したんだろう。
しかし、それは力では戻せない。
もう既に上腕から肩を伝い、腰のあたりまで入り込んできていた。
ダメだ――。当たり前の力では押し戻せない。
慶一は心で構えを切り替えた。
――ブッ壊す。
それ以外何も考えなかった。
前に並ぶスキル群も。後ろで待っている朱里の姿も。
『迷わずに、進みなさい』
遠くにあの声が聞こえた。
続いて誰かの声――。
『一』
グン……、
――ゴオ。
「にいィィ!!」
気がついたら声に合わせ、右腕を打ち込んでいた。
生きる為の原動力だった。
十八年間の抑え続けていた衝動のようなものでもあった。
慶一はその日、対岸の一角を自らの決断のための火種に変えた。
もう後には退けない。
湧き上がる力はこれからの戦いの始まりを教えているようだった。