61、一対一
翌朝、早くに二人は朱水家を出た。
「慶一。一つだけ約束だ。絶対に死ぬな」
井黒は中立の立場にあるため、手を貸すことはできない。でも必ず助けに行く。そう念を押して二人は別れた。別れ際に駆の着ていたジャケットをもらった。また会って必ず返すと約束した。
森羅はエリオス・ルベレを国王とする王国だ。四大国は百年前の大災害を乗り越えた後に不可侵条約を結んでいる。外交においても不穏な動きはなく各国のバランスは保たれていたはずだった。
南国にはどれだけの戦力があるのだろう。空丸や由瑞たちのことが心配になった。一刻も早く戻らなければならない。
慶一は月乃を通るルートではなく、またしても最短で白井へ向かう道を取った。
どんなに急いでも数日はかかってしまう――。
早くたどり着かなければならない。自分の力が役に立つかどうかは自信がなかったが、戦争が始まった以上は戦うしかない。
白井中央街白亜市にある知事の館内にて。
暗い部屋に二つの人影が見える。
「父上、すみません」
「儂の責任でもある。自分の不始末は自分で片づける」
「行かれるのですか」
「あとは雪代に任せる。お前は雪代と共に国を立て直してくれ」
男は部屋の隅に置いてある椰子の木の前にうつむいて立ち、目を閉じた。
先延ばしにされていた飾蒲生への対応。同じ一族の長として事態を放置した罪は大きい。状況は最悪の結果になりつつあった。
森羅は外地の開拓領域の境界線を越えて開拓区域を設定したことで開拓領域の返還を求めてきた。これに白井が応じなかったため交渉は打ち切られ、国交は断裂された。賢王として知られるエリオス王のやり方ではない。
外地の開拓は各国共に自由だが開拓した外地は排他的開拓区域となり、国の領域にすることはできない。
また、年間に開拓できる排他的開拓区域の広さも決められている。
排他的開拓区域は国の人口が増加した場合、その増加量によって僅かに国の領域とすることができる。これは各国間によって決められており、国の人口を増やすため住みやすい国づくりも大事な国政となっている。
この排他的開拓区域を森羅は自国の分を奪い取られたと訴えてきた。しかし、白井には身に覚えのないことだった。
南側境界付近。市街地から境界の外に出てしばらく行ったところにある廃墟地帯。薄暗い廃ビルの物陰に銃を構え、迷彩服を着た兵士が数人いる。
先頭の男が灰論で索敵を慎重に行っている。物凄い勢いで向かってくる橙色の光を見つけると、腰を落として周囲を警戒した。
ドゴォ――ン
やがてビルの屋上にまるで隕石でも降ってきたかのような轟音が鳴り響く。
「GO」
隊長と思われる男と、そのあとに続いて銃を構えた兵士たちが屋上への階段を上がっていく。
屋上にたどり着き、扉を開ける。すると目の前に炎を纏った空丸がいた。
ダダダダダダ
屋上へ展開した兵士たちが一斉に銃撃を浴びせる。
ギギギギギィン
防壁がそれらを弾く。
何て閉鎖陣形だ。相当使い込んでるな。守りは堅いか。
隊長のルッツ・フォリア―はナイフを取り出して構えた。刺突の態勢だ。一方、空丸は同じくサバイバルナイフを取って逆手に握る。
ひゅん
鋭い刺突を繰り出してきた。それを擦って避ける。
念頭にあるのはスキルについてだ。定型技能ならある程度予想はできるが、自由技能なら予測がつかない。
隊員たちは脇に控えて気配を伺っている。銃撃が効かない以上は直接しかない。何人かは銃を起きナイフを握っている。
場力を覆そうと試みているが、たった一人の空丸の場力を上回れない。全員が激しい威圧を受けている。
シュン
僅かに左肩をかすった。
その次の瞬間。
ボンッ
爆発音と共に空丸が右方向に吹き飛んだ。左肩を激しく損傷した。
【一輪刺し】。
敵のディスオーダーだ。
武器を介して相手の身体に触れたとき、源力を流し込み炸裂させる。切り傷をつけるだけで深手を負わせられる。
空丸は無言で起き上がり、源力を練り上げていく。
明後日――。
からの【強攻撃】。
ドゴォ
布陣六番の衝撃を受け、隊員たちは気を失った。
ちっ、冒険者は扱いづらい。
隊長のルッツはナイフを逆手に持ち替えた。




