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60、知らせ

 二人は来客用の離れに案内された。知美と呼ばれていた若い女が二人分の布団を部屋に敷いてくれた。


「何か御用があればこちらの者へお申し付けください」


 そういうと自分は食堂の方へと戻っていった。


「さて、風呂にも入ったからあとは寝るだけだな。ここはいいなあ無防備で寝られて」


「どういうことだ?」


「俺も敵には目を付けられてるからな。外壁や外門の攻撃をいつ受けてもおかしくない」


「そうなのか」


「まあ俺は御力は持たないから狙われてもあちらに旨みはないけどな」


 敵は執拗に御力ばかりを狙っている。邪魔者を消すという間接的なことはやってこない。敵の判断が稚拙なのか、何かの制約があるのかはわからない。


「お、ジュースがあるぞ。酔い覚ましに飲むか」


 備え付けてあった冷蔵庫からジュースの瓶を見つけてきた。二人分をコップに注ぐ。端に押しやった座卓で二人で座って飲み始めた。座卓の上には丸盆に菓子も置いてある。

 窓の外にはぽつりぽつりと街灯の明かりが見え、少し離れたところではまだ火を焚いているのが薄っすらと橙色に見える。部屋の明かりを薄明かりにして二人でそれを眺めていた。

 風もなく穏やかな暗闇が遠くまで伸びているのが見える。


「ああ、静かだな」


「……」


 ジュースをコップに注ぐ音が心地よく響く。

 慶一には男友達がいない。最も懇意だったのは西村葉子の弟の葉だが三つ年下で朱里と同い年だった。

 あの村で一生を終えてもかまわないと思っていたが、今こうして駆を隣にして外へ出たことが悪くないことだったと思えていた。


「なあ、慶一。お前女はいないのか?」


 二人で黙っていると突拍子もないことを言い出してきた。


「女?」


「そうだ。女、釣り、読書。男が人生において嗜んでおくべき三つだ」


「今、思いついたんじゃないのか」


「ははは、まあそう言うなよ。で、どうなんだ? まあ、俺もいないけどな」


「……いない、のだろうか。わからない」


 一瞬、朱里の姿が思い浮かんだが、自分の気持ちがはっきりとは掴めなかった。幼馴染みとしてしか考えたことはなかったからだ。


「何だ、いるのか。大事にしろよ」


 駆はからかうように笑っている。


 今まで自分の世界に大事な存在として思っていたのは月乃の村の朱里や義一たちだけだった。そんな自分の世界さえ守れることができればいいと思っていた。

 だが今こうして駆たちと出会うことで自分との繋がりがそれだけではないことを知った。

 駆は最前線に出ている。死んでほしくないと心から思った。


 祖国のために駆一人だけに戦わせるわけにはいかない。自分の出生も明らかになった以上、これからやるべきことを決めなければならない。


「俺にできることはあるだろうか」


 慶一はうかがうようにそう呟いた。


「お前も戦ってくれるなら、これ以上のことはない。だがそれはゆっくり決めればいい」


 しかし、慶一の中で答えは出ていた。――蒼い庭園。

 飾家と戦うならそこに行く必要があるのだろう。


「まあとりあえず、今日は休もう。俺も数日はまだこの国にいる」


 そうして二人は寝ることにした。


 しかしこの晩、慶一も寝静まった夜中に、急を知らせるメールが到着する。


“森羅が宣戦布告をした。手伝いに来れるか”


 それはあまりにも突然の内容だった。由瑞からのメールだ。南の大国森羅が白井に宣戦布告をしたというものだった。

 翌朝、それを確認した慶一はすぐに返事をした。


“今から向かいます”


 こうして再び苦しい戦乱の中へと身を投じることになるのだった。

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