57、再会
あれから二日ほどかけ、慶一は井黒の東側検問所へとたどり着いていた。IDカードを提示して中に入る。井黒の東側の町、上田市へと入国する。
入って最初に驚いたのは高層の建物が多いことだ。目に見える街並みは白井とは大分変わっている。白井では高層の建物は高くてもせいぜい五階建てまでだった。源力の使い手は地面に接していることに非常に神経を使う。地に足をつけている状態で初めて、精神を何もない澄んだ状態に持っていける。その状態で初めて源力を混合していく。同じ理屈で布陣九番の空箱は地面の上でしか発動できない。しかし、そんなことは意にも介さないかのように高層の建物が多い。遠く王都の方角には地上三百メートルの電波塔ブラックツリーが霞んで見える。施工のときには冒険者も駆り出されたといわれる井黒のランドマークだ。
宿を確保するため、まずは上田にあるギルド支部を訪れる。
窓口で手続きをして書類をもらった。これでIDカードと書類を見せればギルド加盟の宿にタダで泊まれる。本部には明日向かおう。そう思ったそのとき――。
「吾妻さまに面会の申し込みが来ているのですが、どうなさいますか?」
受付の女性ギルド員に尋ねられた。どうやら自分に会いたいという人間がいるらしい。特に断る理由もないので許可した。
「では、今からお呼びしますので、応接室でお待ちください」
言われるままに部屋へと向かう。自分が白井からこの井黒へ来ることはギルドでは知られているはずだろうから、ギルドの関係者で自分と繋がりがある者なのだろう。慶一はただ黙ってその相手を待つことにした。
しばらくして、部屋に一人の若い男が入ってきた。木綿のシャツに濃緑色のズボンを履いてマスクをしている。慶一の姿を確認すると、男はマスクを外して挨拶をしてきた。
「慶一。久しぶりだな。ずっと待っていたぞこのときを」
どうやら相手は自分のことを知っている人間のようだった。しかし慶一の記憶にはどこにも残っていない。
「誰だ?」
そう言うと男は立っている慶一に椅子に座るよう促した。
「まあ、無理もないだろうな。何しろ別れてから十五年も経つからな。しかし俺は覚えているぞ。おっと、名前を言わないとわからんか。俺は狢川駆。お前と俺のところはここ井黒で朱水王家を支える二大貴族の家柄だ」
ここ井黒には王家を支える二大貴族と呼ばれる家柄があり、吾妻はその一つになる。もしかしたらお前はその吾妻家ゆかりの者かもしれない、と空丸から教えられていた。
「俺は月乃という田舎町で育った。物心ついたときからその記憶しかない。俺はこの国の人間なのか?」
慶一の向かいに座った男はゆっくりと説明をし始めた。
「そうだ。お前は吾妻家の嫡男だ。お前の母は髄家の血筋だったため、お前は御力を持って生まれた。しかし、お前は御力を最初に押し殺そうとした。覚えてはいないかもしれないが、自分の中の御力を抑え続けた。おそらく御力を持つものが取ったそれは初めての行為だった。当時、朱水王家は南の飾家と戦乱の最中にあった。飾家は慶一の命を要求してきた。御力を抑える子どもは珍しかったのだろう。慶一の身を案じた吾妻家は信頼できるものに慶一を預けて外へと逃がした。その先があの月乃村というわけだ」
男は説明を続けた。
「直接は手が下されなかったが、その後で外壁が張り付いていた可能性が高い。みんな心配していたんだ。無事なようでよかった」
確かに逃れた慶一にはその後、外壁が張り付いた。義一と二人で力を合わせ、何とか凌いでいたが、あることをきっかけに外壁は破壊された。
「俺は冒険者になった。お前も冒険者になったと聞いた。俺は朱水王家の仇を取るため飾家と戦うつもりだ。お前はどうする?」
十五年前の戦いで朱水の王だった朱水武は飾蒲生に殺されていた。今は甥の冬士郎が跡を継いでいる。
「とりあえず、吾妻の家に帰ったらどうだ。お前の家族がいる」
「いや、俺は……」
家族と言われても上手く納得はできなかった。全く記憶にない人間だ。慶一にとっての家族は、どちらかといえば義一と朱里だった。
「まあ、そう言うな。今はお前の弟が一人で跡目を継いでいる」
父親は同じく十五年前に戦死しているとのことだった。勧められるまま、慶一は弟がいるという吾妻家へ向かうことにした。




