6、源力
午後に入り、部屋のドアを開けると二人はまだそこで寝ていた。
朱里が上で慶一がその下の床で寝ている。
幼かった頃から何度も見ている光景だ。床に寝そべっているその隣のベッドの上からいつも朱里がのぞき込む。
慶一は面倒くさそうに教科書や図鑑などのページを繰って眺めている。朱里が何も言わずにただ見ている。
二人の間にはそうした無言の空間が昔からよく広がっていた。
慶一は学校に通えなかったのでよくこの部屋でそうしている姿を見ることができた。あれからもう何年経つだろうか。義一は二人を起こさないように窓のカーテンを閉め、寝ている慶一に布団を掛けた。
部屋から出ていくときにテーブルライトを忘れないようにつけていった。朱里はいつもこれを必ずつけてから寝る。目が覚めたときに真っ暗になっていないようにするためだ。窓の外はもう日が暮れかけていた。
簡単な食事の支度を終わらせてリビングから窓の外を眺めていると、子どもたちが学校かどこかから帰っていく姿が見えた。
今日は薪割りのおかげで面倒な仕事を一つ片づけることができた。町の学校に黒学の導入を検討するように言われていたのだが、昼に来た西村がその対応を終わらせてくれたようだった。
黒学は上級スキルを獲得するための専門的な教育を行うためのクラスだが、実際には冒険者協会の指定したスキルを期間内に学ばせなければならない場所だ。最前線において不足しているスキルなどが指示されることが多いが、義一は生徒たちの親からも頼まれ、長いこと断り続けてきた。
この世界でスキルを発動するためには、長い時間をかけて体に覚え込ませる必要がある。
ただし一度覚えさえすれば、あとは集中力をそれなりに高めればそれぞれのスキルを放つことができる。
ところが、これはその使用者にしかわからないことだが、覚え方や使い方さえ知られていない未知のスキルが存在する。それは本人にしか扱うことができない唯一無二のスキルであり、冒険者によって開拓される限り、無限に存在すると言われる、学校でも学ぶことができないスキルだ。
自由技能と呼ばれており、それ自体に高い賞金が懸けられているようなものでもある。
義一は、慶一の中にどうやらその適性が宿っているのを感じたようで、翌日このことを二人が一緒のときに伝えた。
炎陣は火属性と布陣型のスキルだった。つまり複属性にもなる。
冒険者協会に登録すれば報酬や仕事ももらえるだろうということも伝えた。
それに興味を持った慶一は、その後、あの洞窟へと向かった。
自由技能の覚醒には、源力と呼ばれる精神力が必要になる。
そして、それは発動にも必要になる。
その力でもって死地領域を破壊すること。それがパンデモニウムと呼ばれる覚醒条件であり、それが叶えられれば最高位の万魔殿を獲得することができる。
つまり慶一はあのとき説明スキルを後払いのような感じで獲得し、さらに自由スキルをその場で手に入れたのだった。
二人は確認のために翌日、再びあの洞窟へと向かった。あそこならスキルのことがもっとわかるはずだろう。
そう思ったからだった。