50、祈り
庭の落ち葉を広い集めていた。村で飼っている牛たちの寝床になるからだ。義一の家の庭は広い。畑もある。村長のような立場でもある義一はこの村の者の顔と名前をほとんど知っている。
子が生まれると義一の元へ挨拶にくる夫婦も多い。今日はまた変わった客が義一の元を訪れた。
「義一さん、落ち葉さらいですか」
「ああ、西村先生。はい、日が暮れる前にと思いまして」
「井黒の【黒犬】も寄る年波には逆らえないようですね」
「懐かしい呼び名ですね。すっかり忘れていました」
月乃の青学の教師をしている西村が紙袋をさげてやってきた。
それを義一に手渡す。中には焼き菓子が入っていた。
「いつもすみません」
「今日のは葉が焼いたんですよ。朱里ちゃんにも早く元気になってほしいそうです」
「そうですか。慶一からは最近は便りもきません。無事な証拠でしょう」
「場所はわかるのですか?」
「朱里の【足跡】があるので」
「足跡? 自由技能ですか?」
「はは、まさか。同位改変です」
「……ああ。そうでしたか。では隆起も彼が」
「いえ、瀬という少年がいましたので」
「【蒼い庭園】ですか」
「はい。さすがよくご存知で」
「……」
「次の隆起がいつ来るかです」
「そうですね。私もできるだけのことはします」
暗くなりかけた空には月が浮かんで見えた。
あれから半月ほどが経っていた。
少し前に訪れた男は井黒からの使いだと言った。
目的は義一ではなく慶一だった。
慶一のことを知っているのは、吾妻か狢川の中でもほんの一部の人間。あるいは朱水王家だけのはずだ。
使いは名を名乗らなかった。
知らない間に色んなことが動き始めている。
しかし、自分がやることは朱里を守ることだけだ。
義一は冷たくなった手のひらを見て、自分たちの時代は終わりを迎えていることを悟った。
これからは若いものたちの時代だ。
そして、朱里もその中にいる。
やはり彼らに守ってもらうしかないのかもしれない。
時代に従うのも、その時代に生きるものの役目だと感じた。




