49、はじまりの本
秋も終わり、庭の木々も寂しさを見せている。
ギルドからの仕事もなく、薪を切るだけの日々が続いている。
部屋をノックして入ると、朱里が寝間着に肩掛けを羽織った姿で床に座っていた。本を読んでいるようだ。
「牛乳温めてきた。体は大丈夫か」
「うん、ありがとう」
義一はそれをテーブルに置くと、サイドボードの上にある一冊の本に目をやった。
「――風に吹かれて――」。
タイトルにそう書いてある。
これは義一が知る、ある人物が書いた本だ。
始まりは、義一がまだあの国にいた頃の話だ。そこで慶一と出会い、この月乃に流れてきた。朱里の母と出会い、朱里が生まれ、その男と知り合い、彼はこの物語を綴った。
これは、朱里のために書かれたものだった。
――月乃の村にある男がいた。
彼は古文書の一部を何処かから手に入れた。
そしてそれを解読し、あるスキルを手に入れた。
それは今までに誰も聞いたこともないスキルだった。
その時点で獲得されている全てのスキルを知ることができる。
男はそれを古文書に記した。
それは古代人の残したスキルツリー、世界樹【至萌センチュリオン】そのものだった。
スキルには風が吹く、というのがその本での特徴的な部分だった。
男は、間もなく寿命を迎えると言った。
年寄りたちは早々にこの世を去るものだ。
だからお前は死なない。
その本は朱里だけが読むことができた。
義一も読むことができた。
しかし、慶一は手をつけることが許されなかった。
それでもその本のことは三人でいるときにも度々話題に上がり、内容は慶一も少しだけは知っていた。
作者の名前も二人には知らされなかった。義一だけが知っていた。そのうち会える、とだけ聞かされていた。
本はほとんどが脚色されていたが、元はノンフィクションであり、その内容に従えばスキルを覚えることもできる、と言われた。
慶一はまだ誰も知らないそのスキルに興味を持ち、その日、あの山へと向かった。




