46、闇の道程
暗い部屋に一人の男がいる。
下を向きながら体を動かしている。
「……ッ」
隣で若い女がうつ伏せている。
「ぐっ」
ドゴオ
その若い女は、殴られたような反動を食らい床で呻いている。体に気味の悪い札が貼られていた。
女は口から血を流し、気絶した。
男は女の元へと歩いて行き、倒れた体からその札を外した。
そこには薄く「作場庭二郎」と書かれていた。
よく見ると部屋には同じように倒れている女の姿があった。
男はそのまま机の前の椅子に腰かけ、一冊の本の間にその札を挟んだ。目は閉じられたままだ。
本には表紙に「ザカリテ戦記」と書かれたラベルが貼られていた。
男が書いた本だ。本には他にもいくつも、まるで栞のように札が挟まれていた。本は小説だ。男が創作したものだ。
もしこの世界に、この男と心を交わせ、言葉を伝え合う者がいたなら、この後、世界は進み方を大きく変えたかもしれない。
世界は暗黒の淵へと邁進することになる。
その最初の機鋒を受け止めることになったのは、そこで出会った二人の男だった。
雪の降る街で、冷たくなったその片方を、一人、丁寧に葬る姿を、男はただ見下ろしていた。
空丸は深く掘った穴に、その体を静かに寝かせた。
閉じられた目は相変わらず穏やかだった。この男は最後まで何かを傷つけるということはしなかった。
空は白んでいた。
いつの間にか朝になっていた。
雪が微かに舞う空を見上げると、そこにはこの世のものとは思えない、恐ろしい光景が広がっていた。
人間の顔面が、明るくなりかけた空の一面に見たこともないような恐ろしい形相で垂れ下がっていたのだ。
すぐ真下の自分たちを見下ろすその絵はまるで地獄のようだった。
――ずっと見られていた。
外門スキルといい、この外壁といい、もうこの場所は助かる見込みがないのかもしれない。
それは街の奥深くにいる自分にもいえることだろう。
ここに来てはいけない。
空丸は久しく考えることもなかった二人の姿を思い浮かべ、その場を後にした。




