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42、探索(3)

 空丸は部屋のベッドの脚を壊して松明のように棒状のものだけを取り出した。

 そこに衣類を巻き付け、ストーブの燃料を浸して携帯することにした。順一は燃料タンクから中身を花瓶に移して持っていくことにした。

 これでしばらくは外門スキルにさらされずに進むことができる。足りなくなったら民家から拝借しよう、ということになった。この状態で探し回るよりも元を断った方が早い。二人は北の黒い雲だけを目指すことにした。

 順一は、福地洋子という名前の女性については知らないようだった。


 外に出ると小雪が舞っていた。幸い風はないから松明の火が消されることはなさそうだった。すぐ後ろを順一が背中を丸めてついて歩いている。


「お昼……」


 雪が薄く積もる街路を歩いていると、順一が唐突に後ろで声をあげた。


「お昼、とんこつラーメン」


 そう言いながら片方の手で一枚の紙切れを防寒着のポケットから取り出し、空丸の前に広げて見せた。


 紙切れには病院食の献立が書いてあった。

 今日の昼食と思われる箇所に「とんこつラーメン」と書かれている。


「何だ、腹減らしてるのか」


「……とんこつラーメン」


 空丸はポケットから非常用の栄養食を取り出してそれを箱ごと順一に渡した。

 あの晩、ログハウスに食べかけの状態で置いてあったので一応持ってきておいたのだ。

 順一は受けとると箱を破り、中身にかじりついた。

 無表情のままこちらを見ている。味はいまいちらしい。


「ここから出られたら、いくらでも作ってやるよ」


「本当……、とんこつラーメン」


 二人は再び北へ向けて歩き始めた。


 しばらく歩き続けていると、順一のペースが少しずつ落ちてきた。

 衣類と燃料の残量もあと少しになってきていた。

 空丸は一度補給のために近くのできるだけ大きめの民家に入ることにした。

 どうしようもなくなったときは、炎天下(リボルブ)を放つか自身が内界発動させるしかない。煙突のある家はおそらく薪ストーブだからだめだ。煙突もない家を探した。


 そうして入った民家で、何とか物置に燃料タンクを見つけることができた。

 しかし、今度は外の天気に見放されることになった。

 空が暗くなり、吹雪いてきた。


 この風では先へは進めない。

 空丸一人ならある程度は外門スキルを無視して進めるが、順一を置いていくわけにはいかない。

 空丸はとりあえずストーブの火をつけた。


「空丸さん」


 居間と思われる部屋で二人でストーブを前にして床に座っていると、順一がおもむろに喋り始めた。


「ごめんね」


「何で謝るんだ」


「おれ、やくたたず」


「そんなことはないよ」


 ここに来るまでに、何度も火を灯し直すときの外門スキルを浴びてしまう時間帯があった。

 それはできるだけ最小限に止めたとはいえ、何度も浴びるのは普通の人間には耐え難いはずだ。

 しかし、順一は時々、それらを打ち消すような場力を出していたようだった。


 場力はどんな生物でも出すことが可能だが、はっきりと場力だとわかるほどのレベルで出せるものはごく少数に限られる。

 源力使いは、かなり高い場力を出すことができるが、気配や戦闘能力などの情報を相手に渡すことになるため、基本的に場力は瞬間的に出すものだとされている。


 外門スキルは強力な場力の元では、まるで傘で雨風を凌ぐかのように打ち消すことができる。

 空丸はあの男の言った言葉がずっと気になっていた。


 間に合うことは間に合う――。


 外門スキルにさらされて長時間生きられるものはいない。

 もし火の効力を知っていたのなら、慶一たちに教えていないはずはない。

 あの男が体の不自由さに抗うときも、すぐそばで場力の波がはっきりと感じられた。


「順一、お前は避難させるためにあそこに残ったんだろう」


「……おれ、あそこしかいられない」


 どうやら強い場力を持ったものが、おそらくまだこの街に残っているみたいだ。


 一人ずつ探すよりも、やっぱり元を何とかした方がいい。

 しかし、この天気では外に出れない。


「順一、お前ここで待っていられるか。ここからは俺一人で行く」


 空丸が言うと、男は黙ってうなずいた。


 ここからなら黒い雲まで、明後日(アサッテ)を纏った状態でたどり着ける。

 できれば慶一たちが来るまでに終わらせた方がいい。


 空丸は病院で見つけた外套を置いて、軽装の状態で表に出た。

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