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41、探索(2)

 気がつくと空丸はベッドの上で寝ていた。

 天井がある。そしてやけに暖かい。

 体の状態と拘束の有無を確認した。どれも異常はない。

 しかし、記憶がすぐに安定しない。

 どうやらそれぐらい深い眠りについていたようだ。

 そのおかげで体力はすっかり回復できたようだが、周囲の状況がわからない。

 体を起こして周りを確認する。


 窓の外では雪がちらついている。朝だろうか、夕方だろうか。外は少しだけ薄暗い。

 ベッドの隣で大きめの石油ストーブが焚かれていた。

 そして、その傍に一人の男が座っていた。


 ストーブのすぐ前で、その男は床に座り込んだまま、同じように暖まっていた。

 歳は四十ぐらい、頭は丸坊主でやや小太りで灰色の寝巻きを上下に着ていた。

 スリッパを履き、赤い炎をただじっと見て、顔は熱さのせいか大分火照っていた。

 どうやらこの男に助けられたようだ。

 男の方も空丸が目を覚ましたのに気づいたようで、こちらを見上げると小さな声で言った。


「お、おあよう」


 男は座ったままそれ以上は何も言わず、ただ笑ってこちらを見ていた。

 敵意はないようだ。一体何が起きているのか、この男に聞くしかないみたいだ。


「おはよう」


 記憶がまとまらないまま返答する。すると、男の方からそれを見透かしたような質問が投げかけられてきた。


「何しに、きたの。ここ、口女」


 そうだここは口女だ、人を探しに来たのだ。できればその原因も探しに来た。


「ここ、病院の中」


 どうやらここは病院らしい。今いる場所は入院病棟のようだ。


「だれもいない、おれだけ」


 病院内にいるのはこの男だけのようだ。


「何故、お前だけなんだ?」


 よく見ると着ている服が泥で汚れている。ベッドも泥だらけだ。雪の上に倒れ、そのまま運ばれてベッドに寝かされたようだ。

 空丸は目的の前にただ疑問に思ったことを口にした。


「きがえ、あるよ」


 そう言うと男は他のベッドの引き出しから寝巻きや下着などをどっさりと持ってきて空丸のベッドの上に置いた。

 綺麗にたたまれたものばかりだが、どれも外に出るのに適したものではない。


「お前が助けてくれたのか、ありがとう」


 男は同じように気の抜けた笑い顔を見せたまま、床の上にまた座り込んだ。

 どうやら、この病院の人間は全員避難したようだ。何故この男は避難しなかったのだろう。


「おれ、いくとこないんだ」


 ストーブの赤い炎を眺めながら、笑い顔のまま男が答えた。

 口元からは涎が時折垂れている。

 もう長い間ここにいる患者のようだ。


 部屋にはベッドが四つあった。四人部屋のようだ。

 真ん中にストーブが置かれている。

 窓は少しだけしか開かず換気も十分な部屋ではない。ストーブはどこかから無理やり持ち込んできたもののようだった。

 男は何も言わずストーブの前に座っている。炎は一番弱くしてあるようだった。


 空丸がベッドから下り、部屋の入り口から外に出ていこうとすると、男は何も言わず、ただストーブの炎をほんの少しだけ強めた。

 部屋の戸を開けると、目の前に閉じられたナースステーションが見えた。薄暗くて誰の姿も見えない。

 そして部屋の外に一歩、踏み出した途端、それはやってきた。


「う、……くっ」


 外門スキルだ。これのこともすっかり忘れていた。

 生気を奪い取られるような重みが、冷たい空気と共に全身にのし掛かる。

 外に出てはいけないようだ。部屋に戻るとそれは嘘のように消えた。


 一体何が起きているのだろうか。

 何故この部屋は無事なのだろう。


 男は何も言わず、ただ赤い炎を見つめていた。


 炎――。

 もしかしたら、火が外門スキルを無効化しているのだろうか。


 外門スキルには、無効化できるものが僅かに存在することは知られている。

 髄家の血族が持つ御力と、一部のディスオーダーがそれにあたる。そう聞かされていた。

 そしてそのディスオーダーにはある傾向が含まれている必要があるということも知っており、自分のスキルもそれに該当し得るということまで空丸は知っていた。

 もし火がそうだというのなら自分のスキルが含まれるのも理解できる。


 しかし同じ火ならプラクティスでも放てるものはある。

 試しに空丸は衣類の一つを借りて火を付けてみた。


 すると、何の負荷もなくナースステーションまで来ることができた。やっぱり火だ。


 しかし、こんな簡単なことが今まで知られずにいたのだろうか。

 隠し通すことは難しいはずだ、誰かが試せばいいだけなのだから。

 もしかしたら、これは外門スキルではないのだろうか。


 状況はまだはっきりとはわからないが、これで外には出られる。

 空丸はありったけの衣類を傍にあったかばんに詰めた。


 男はただ黙って空丸を見上げていた。

 この男を置いていくわけにもいかない。


「お前も来るか?」


 空丸が言うと、男はやや思案の素振りを見せた後、小さな声で答えた。


「……行く」


 窓の外は少しだけ日が暮れ始めていた。どうやら夕方だったようだ。

 このベッドで丸一日寝ていたことになる。


「お前、名前は?」


「じゅんいち」


 男は袖口で涎を拭いながら答えた。

 街の外に出ればどこかには居場所はあるだろう。


 空丸は男を連れ、街の北にある中央街を目指すことにした。

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