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38、訪れ

 一行は白井へは寄らず、少しだけ迂回して月乃を目指すことにした。

 ここからだとあと一日ほどで着くであろう場所で三人は野営の準備を始める。

 内地には白井が管理している野営場所が点在しており、そのうちの一つの古い小屋を利用することにした。内地とは四国に囲まれた内側の世界のことを指す。外側のまだ未知の部分を外地という。

 彼らのいるこの「ユグドラシル」には、現在車両による交通が存在しない。百年ほど前に起きた大規模災害によって車両は全て利用されなくなった。昔話としてそれは今も広くに語り継がれている。


 小屋には簡素な台所の他に部屋が二つ付いていた。台所にはテーブルと、椅子が四つあり、薪ストーブが備えられている。


「寒いか? 寒いならつけるぞ」


 外の気温は既に一桁だったが、二人はそのまま黙って椅子に腰かけた。


「腹へったな」


 また一人言のように空丸が呟くと上着のポケットからいくつかの木の実を取り出してテーブルに並べた。


「これ食えるか? 拾ったんだけど」


 そのうちの一つを手に取り、深山が答える。


「食えるのと食えないのがあるな。毒ではないけど」


 そう言いながら傍にあった燭台に、照明魔法(ライト)を静かに乗せた。外はもう薄暗い。

 慶一はそれを見て少しだけ懐かしい気持ちになった。


「月乃は通りすぎたことしかないな。小さな村だろ?」


「俺はよく行くよ。何人か顔見知りがいる」


 どうせだから通り道にある月乃にも一度戻ろうということになった。もしかしたら義一が何か知っているかもしれない。



照明魔法(ライト)がそんなに珍しいか」


 黙ったまま燭台の明かりを見ている慶一を見て空丸が言った。


「あ……、いえ」


 ぼんやりと暗闇に浮かぶ灯をながめながら、三人の間に静かな時間が流れる。

 そのとき、小屋の外でかすかに物音が聞こえたような気がした。


「何だ? 猿でもきたか?」


「見てきます」


 そう言うと慶一はドアを開け、外の様子を見るためにかけてもらった照明魔法(ライト)を手に持って外に出た。


 辺りはすっかり暗くなっていた。

 見渡すと冷たくなった外の空気に風による葉擦れの音がするだけで、他には何も見当たらなかった。


 遠くには明かり一つない。月の光にかすかに見渡せるのは、小屋を囲む木々の向こうに歩いてきた街道がひっそりとしている姿だけだった。

 義一から教えてもらった白井までの道は整備された道のようで、途中に集落やすれ違う人なども少なからず見られたが、ここは路面は見る影もなく荒れ果てており、目にするのは人の姿よりも獣の数の方が多かった。


 慶一は木々の小道を抜けて街道の方まで出てみた。遠くに打ち捨てられた車が見える。途中には養鶏場の跡があった。道路脇にはたまごの自動販売機らしきものがある。中は空だ。錆び付いている。昔はそれなりに賑やかだったのだろうか。そう思うとどこか寂しい気持ちになった。


 ――ここにいても仕方ない。


 そう思って戻ろうとしたとき、道の向こうに何かが動くのが見えた。獣にしては大きい。あれは、人影だ――。


 その人影は、ゆっくりと、まるで這うようにしてこちらに近づいてきた。様子がおかしい。慶一は照明魔法(ライト)を前にかかげながら近づいていった。


「大丈夫ですか」


 慶一が声をかけると、人影は眩しそうにライトを見上げて言った。


「か、母ちゃんが……」


 どうやら若い男のようだ。見慣れない服を着ている。この辺りの人間ではなさそうだ。


 靴はボロボロで服もあちこち擦りきれている。しかし、大分厚着をしている。防寒用の頭巾もかぶっている。北の方から来たのだろうか。荷物は何も持っていない。


「お母さん?」


 慶一が尋ねると、男は続けて言った。


「ギルドに助けを呼んでください。口女(こうめ)が、母ちゃんが……」



 口女。北の大国、牙途(がと)の街の一つだ。

 どうやら男は何日もかけ、遥々この場所まで助けを求めてやってきたらしい。



「どうした、慶一。誰だそれ?」


 様子が気になった空丸が探しにやってきた。遅れて深山もついてくる。


「何だ、ひどい格好だな。とりあえず中に入れ」


 そう言うと一行は小屋の中で男から事情を聞くことにした。



 冬の訪れを迎える前にやってきた、突然の来訪者。

 それは彼らにとって過酷な試練の前触れだった。


 三人はこの後進路を変え、急ぎ北の大国、牙途へと向かうことになるのだった。

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