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37、シリウス

 森の中を駆ける少年の姿が見える。この世界では珍しい赤髪が薄暗い森の中に映えて見える。

 そのすぐ後ろを同じく赤髪の少女が追いかけるように続いている。


「待って! お兄ちゃん!」


 縋るような背後からの声に背くように少年は速度を上げ、前方に迫ってきた山間の小さな沢を跳躍して越えた。

 走り疲れた妹と思われる少女への追い打ちのように少年はそのまま走り去っていった。

 置き去りにされた少女は地面に座り込み、制式動服の胸ポケットに収めていた携帯端末を震える手で取り出した。


「だれか、出て!!」


「レイ、どうしたの!?」


 携帯端末から若い女の声が聞こえた。それに続いて今度は男の声が届く。


我殺(がさつ)が現れた。十一番にはカミラがいるはずだが」


「それが、カミラさまは例の一番の確認に行ってしまって……」


「ではレンが十一番に向かっているのか?」


「そうです、お兄ちゃん源力(ロドーラ)も十分じゃないのに」


 息を切らしながら携帯端末に向かう少女の遥か前方で激しい地鳴りのような音が突然聞こえ始めた。


「……!?」


 どうやら戦闘の音のようだ。

 衝撃の音と同時に地鳴りが何度か上がる。

 木々が倒れるような音も途切れなく上がっている。かなり激しい戦闘のようだ。


 おかしい、どう考えても兄の戦う音ではない。

 祈るように前方を見るレイの目に映るのは今までに見たこともないような激しい衝突と破壊の光景だった。


 ――兄ではない誰かが戦っている。


 目の前を理解できずにいるのも構うことなく、その最後の光景はやってきた。



 ゴゴゴゴゴゴ……



 衝撃の音が止み、木々の向こう側に小さな太陽がゆっくりと上がったのが見えた。

 まるでおとぎ話か何かのように、上空に太陽が二つ並んだように見える。


 いったいどちらが出した能力――?


 レイがそう思った直後、携帯端末にメッセージが入った。兄からだ。



“ここじゃよくわかんねえ、お前よく見とけ”



 兄はあの現場にいるようだ。やっぱり兄じゃない。

 そう思った直後、小さな太陽が地面に向かって落ちた。

 僅か数秒のことだった。


 いったい何なのこれ――。


 凄まじい爆風がこの場所まで届いてくる。

 まるで隕石のようだ。スキルの桁が違う。



 沢を何とか渡り切り、薙ぎ倒された木々を乗り越えながら兄の元までたどり着くと、そこには巨大なクレーターとその淵で佇む一人の男の姿があった。


 あのときと同じだ。

 弥勒をやったやつだ。


 放心状態の兄の目も同じことを言っている。

 クレーターの中央には同じように黒焦げになった梵天の姿があった。


 梵天を二人も――。



 男がゆっくりと振り向いてこちらを見た。


「顔見られたなあ、二人ともやっちまうか。わははは」


 張り詰めた空気と二人の表情を嘲笑うかのように男はそう言って笑った。


「あ、あんた……誰?」


 恐る恐るレイが尋ねると、男はまたふざけた様子で言葉を続けた。


「顔だけじゃなく名前もほしいの? 強引だなあお嬢ちゃん!」


 二人が茫然としたままそれを見ていると、そのまま「今日はここまでだな」と言って男は自分がつけたクレーターの跡を越えて木々の向こうへと消えていってしまった。



 狢川駆(かくがわかける)――。

 大狗(シリウス)の称号を持つ井黒の上級冒険者だ。


 彼が月乃に辿り着いたとき、慶一は既に出た後だった。

 十五年も待ったんだ――。


 あれからずっと探し続けた。敵の手にかかる前に必ず出会わなければならない。

 ほんの僅かなすれ違いで月乃に再び戻ろうとする慶一とはまた行き交うことになった。


 

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