35、西へ
賊山での任務を終え、一夜明けた翌日。
危険項目を破ったことで昏睡状態になっていた由瑞も目を覚ましたようだ。
和真の話によると魔神は各地の領主や王族たち、あるいはその能力を持った子どもたちがそう呼ばれるようになっているとのことだった。
上楽は同位改変スキル獄門を使い、魔物を死なせることで自身の外壁を弱らせようとしていた。魔物は死ぬと源力の光を残す。それは御力の暗闇を僅かに払うことができる。
魔神に有効な力を持つ慶一はおそらくどこへ行っても必要とされる。しかしその前にその力の正体を明らかにした方がいい、西へ行けばおそらく出生の秘密もわかるはずだと和真に言われ、慶一は一人このまま山を下りて西へ向かうことになった。西には大陸一の強国でもある井黒がその広大な敷地を擁して存在している。
西へ向かうということは来た道を戻り、月乃を途中で経由することにもなる。月乃は二つの国のちょうど間にあるからだ。慶一はふと朱里と義一の姿を思い浮かべた。そのとき――。
「俺も行こうかな」
空丸が唐突に言った。
「どうせ白井はもうしばらくは穏やかになるだろうし、俺も消息不明になってるみたいだしな」
「上級が一人減ればギルドの負担は増えるが」
由瑞があきらめたように言う。
「お前たち二人だけだと心配だから俺も行くよ」
深山もそう言うと、一行は山を下りて井黒方面へ向かう三人と報告のため白井に戻る由瑞と永崎の二手に分かれることになった。
三人の後ろ姿を見送りながら永崎はしばらくそこに立っていた。服はすっかり泥まみれだ。
「どうした?」
「人形を気にしていたから、人形持つ女の子は変ですか?って聞いたら似合うからいいんじゃないかって」
「……中身は無事か?」
「……はい」
慶一たちを見送ると、自分たちも白井へ戻るため歩き始める。
「何故、一番をためらったのですか?」
「……」
「あの人の前で殺したくなかったのですね。人が死ぬと弱くなる、変わった人ですね」
「……人だけじゃない、あれでは戦い抜けない」
静けさの漂う瓦礫道を引き返していく二人には不安と悲しみしか感じられなかった。
番犬が死んだとき、慶一が川の水を汲もうとしたのを由瑞が咄嗟に静止した。おそらく虫の息の番犬に飲ませようとしたのだろう。
あの二人もどこかでそういったものを感じたのかもしれない。
一人にしてはいけないようだ。
それはよくも悪くも、彼にとっては生き残るために他に選ぶ余地のないことだった。




