31、遭遇(2)
ドガガガ、がゴッ……
白衣を纏った使い魔が拳を途切れなく浴びせる姿が見える。
人形は硬い木でできているようだ。
破れた衣も闇夜に翻っている。
――こちらの方が押している。
筧の使い魔は足止めがその主な役割となっており、止めを刺すことはほとんどない。
高い体術技能は斥候としての使い魔か、こういった使い捨ての作戦にしか使われない。
ガゴン
準備動作のない相手の足刀をまともに食らって再び後方に弾き飛ばされる。
守りへの配慮はないようだ。
源力の発光が次第に消えていった。どうやら時間切れらしい。辺りに暗闇が戻った。
由瑞が静かに間に入る。
正面に映る魔軍。月の下で微かにその姿が見えた。
暗い色の小袖に袴を履いている。雪駄を履き、斜めに向いたまま目線を使い魔から由瑞へと移した。
顔はよく見えない、月明かりを頼りにわかるのは目線に含まれた憂いの表情だけだった。
瓦礫道で出会った男も同じような目をしていた。
「お前、名前は?」
「……ジュウヤ」
表情を変えずにその男は言った。
「そうか……、人違いだな」
視線を動かさないままで由瑞が言う。
「そこを通してほしいのだが」
「……」
どうやら退く気はないようだ。
――最盛の晩、開かずの一森。
詠唱が入った。
体術二番【狸】。
狂暴性Bの危険項目の付いた上級スキル。狂暴性の危険度Bは理性を喪失する欠点が付く。
由瑞はディスオーダーを持たない。
体術のプラクティスのみで戦う。そういうスタイルだ。
これまでもずっとそうしてきた。
毛が逆立ち、赤みを帯びていく。
慶一の出番はまたしても必要とはしないようだ。
相手は魔軍の中枢だ。上空の暗闇に人の気配がある。
そこに全ての答えがあるはずだ。
戦いが始まる――。
ゴオオォォ
始まりは右面打ち、それが目で追える全てだった。そこからの不規則な身体操作で手足が破壊行動に入っている。
威圧の波動に打撃音だけが聞こえる。動きは追えない。
相手は攻撃の七、八割を受け止めている。
鮮血が時折跳ねる。どちらのものかはわからない。
一瞬の溜めが入った。その直後、相手が後ろに吹き飛んでいた。
ゴッ、
グゥウウ――
激しい殴打を受け、地に倒れ込んだ。
攻撃を放った場所では由瑞が四つ足の状態で唸っている。
慶一は直感で理解した。
押しているが倒しきれない――。
ゆっくりと起き上がるジュウヤの周辺に石弾が無数に浮かび上がった。
異様な光景だった。
さっきのはこれだ。
間隙を縫って放たれた一発だ。それであの威力だ。
由瑞は迎撃の態勢から動かない。
判断が由瑞のものではない。
おそらく体術のためにそういう状態なのだろう。
自分がやるしかない――。
静かに構える。
相手の意識がこちらを向いた。
視線もゆっくりとこちらを向く。
――スキル、害田。
見たこともない力を纏った敵の攻撃が慶一に向けられた。
防御スキルはない。自分が受けるしかない。
そのとき、後ろで微かな詠唱が聞こえた。
いや、ただの声だ――。
慶一は景色の端でそれを聞いた。
「――起きて」
それはその男に向けられた声だった。




