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3、魔の契約

 スキル効果の説明が全てされた後、それは一番最後に注釈のように現れた。


『スキル、説明(マニュアル)を獲得しました。以降、全ての定型技能(プラクティス)は獲得不可能となります。自由技能(ディスオーダー)に関しては通常どおり獲得可能です。全てのスキルは解脱可能です。万魔殿(パンデモニウム)、獲得制限を満たしたため、以降、説明(マニュアル)を破棄しない限り獲得は不可能となります』


 目の前には動物の絵からスキルツリーに姿を変えた壁画が壁一面を覆い尽くしており、そこに重なるようにして半透明のスキル説明画面が映し出されていた。それは天井から壁に向けて映写されているみたいだった。


 ――これが【説明(マニュアル)】か。


 スキルを獲得したようだ。生まれて初めての覚醒だ。

 目の前に柔らかい光を感じながらそれをただ黙って受け入れた。


 辺りを見ると、心地よい風の中を奥山の少し湿った香りや虫の鳴き声が遠くの方で聞こえているのが感じられた。

 季節は秋だ。山の入り口付近には山菜取りにもよく来た。朱里は熊を怖がっていた。


 熊ぐらいでは冒険者になれないぞ、とよく笑われていたんだった。でもそれがお前なんだから、とおじさんと俺でよくなぐさめてやった。朱里は本を読むのが好きな子だった。俺なんかよりよっぽど物事を深く知っていた。

 でもどこかいつも自信なさげだった。冒険者なんてなれなくたっていい。お前はそんなことよりも――。


 ――って俺は何でこんなことを考えているんだ?


 まるで何かにそう持っていかれるみたいだった。


 慶一がそれを感じていたとき、洞窟の外では微かな風が夜の山間を吹き抜け、木々や草花を音を立てて揺らしていた。


 早く帰らないといけない、朱里が心配だ。


 そのとき――。



 洞窟の壁画に突然、何かが浮かび始めた。


 人間の影だ。


 それはおもむろに壁面から這い出して来ると、慶一の全身に凄まじい重圧で伸し掛かった。


 ドンッ

        ――ズシ。


「ぐっ」


 地面に倒れ、うつ伏せになったまま、あまりの重さに慶一は意識が薄れかけた。

 そして洞窟内に声が鳴り響く。


『パンデモニウム、開始――戦闘終了まで、概算にして13秒』


 説明(マニュアル)の声。


 遠のく意識の中でそれが聞こえた。



 ――此岸ノ不在証明パンデモニウムスタート――


 洞窟内で発動した、それはひとつの存在証明だ。

 この窮地において生き残ることの証明だ。

 力を示すための、試練だ。


 やることは、耐えるだけだ。

 一瞬でもいいから死地へと入り、戻ってくることだ。

 そこは、異次元の戦闘現場だった。



 雷砲が怒鳴る。

 ゴオオ、という地鳴りの後、人の影が跳躍し加速度を引き上げ、空の魔神の右腕をはねた。

 右腕は地面に突き刺さる寸前に空で爆ぜた。爆風の処理を押し付けられたガイアが左手で宙を薙ぎ、地面の際でその爆風を遮断した。

 崖の上の狼が真下を見下ろす。地面の魔神の背に向けて三本の大木を落としたが、一番目は弾かれガイアのガラスに突き刺さった。二番目と三番目が体を貫き、捕らわれていたバーンを取り返した。

 大木は回転速度を上げ、体内構造の改善を始めようとしたが、狼はすぐに片目を閉じた。大木は魔神の腹で弾け飛んだ。狼はダメージを負う。

 そこへ銀髪の少女が駆け寄り、回復を試み始めた。

 すると空の魔神が雷砲を満タンにして動くのをやめた。

 巨体が地面に落ちてくる。

 雷砲は地に接したら世界が消えると言われる。


 最初に跳躍した男が、空で身を翻した。


 悪魔の慟哭。



 万魔殿(パンデモニウム)――終了。



 十三秒が経過した。

 慶一はどうにか意識を取り戻し、我に返った。


 暗い洞窟内。

 立ち上がるとぼんやりと、朱里のあの心配そうな顔が見えた。

 それを見て慶一はようやく緊張が解かれたように再び地面に倒れ込んだ。


 そよ風が吹く洞窟内で、慶一はようやくそのスキルを手に入れた。

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