27、魔姫
賊山。
正式名、巫文山。
かつて白井防衛区の知事、巫家の嫡子が魔軍との戦いに敗れたことで厳重禁止区域となった場所のことである。
山の斜面が抉られていて、鉄塔が頭から突き刺さっているのが見える。巨大な送電塔だ。
送電塔は敵の砲台だった。
それはある日突然、山の中腹辺りに現れ、そびえ立つその天頂部からは毎晩のように火の雨が街に降り注いだ。
その火を消すためにほとんどの力を振り向けるしかなかった白井の領主たちの中で、嫡子の巫和真だけが、単身その山目掛けてスキルを内界発動させた。
「乱気流」。
氷、風属性ディスオーダー。
飛来物を破壊するとその弾道が固定氷結する。
和真は敵の弾幕を潰しながら少しずつ空を繋げていった。
やがて鉄塔の真上まで来ると、彼はそこで最後のスキルを放った。
三番、体術スキル「蛍」。
自損効果を持つ禁断のスキルだ。
生命エネルギーを燃焼させ、一度だけ奥義の解脱を可能にする。
体術奥義「呪棍」。
鉄塔は弾け飛び、その場で空転して地面に突き刺さった。
乗っていたマキは中心部分にいたため遠心力の影響は受けず、そのまま反撃に転じようとした。
しかし、遠距離の大型スキルしか持たなかったマキは、懐に入り込まれた相手に何もすることができなかった。
和真は奥義の象形造作を再び取り、攻撃をしようとしたその寸前で力尽き、マキと共に地面に落下した。
魔軍の消失。
そして、その日。巫家は若き跡継ぎを失ったと、中央街へその報告を行った。
しかし、後の調査で二人の遺体だけはどこにも見つけることができなかった。
近くで布切れが一枚だけ見つかった。
それは和真の羽織が破られた切れ端であることも記録に残っている。
そこには血が付着しており、発見当時にはまだ少しだけ湿っていた。
調査隊はこのことは巫家には伝えなかった。
既に次の跡継ぎが決まっていたからだ。
このとき、その子である空丸はまだ四歳。
遠くで上がった火の玉は、掴めない記憶のどこかに今もまだ眠っている。




