26、瓦礫道
賊山に続く途中の荒れ地帯。
白井の領地内には車両はほとんど存在しない。
舗装された道は大部分がそのまま残されているがここは荒れ果てていた。
道の左脇の方に所々、奇妙な残骸が見える。
どうやら何かが壊された跡のようだ。
それは荒れた道に沿うようにして点々と連なっていた。
バラバラになったその瓦礫の中に混じって白い容器が落ちて見える。
それは一個だけではなく、残骸の列の中に大体二三メートルくらいの間隔でいくつも落ちていた。
どの器も傷がついたり割れたりはしておらず、打ち捨てられたような景色の中では少しだけ不釣り合いにも見えた。
反対側には林があり、葉が落ち始めひっそりとしている。奥の方から川のせせらぎが聞こえている。日も傾き始めた。
荒野を秋の風が吹き抜けた。
沈んでいた空気が辺りへと散り、獣の匂いが微かに広がった。
――犬小屋。
どうやらここにあるのは全て壊された犬小屋のようだった。
「……」
由瑞と永崎が黙ってそれを見ている。
そのまま通り過ぎてゆく二人の後を慶一も何も言わずにつけた。
やがて由瑞が立ち止まり、気配を少しだけ外に向けた。
永崎もそれに合わせるようにして身構えた。
「ここで飼っていたようだな」
獄門はどうやらここで飼われていたらしい。
「……」
由瑞は残骸の破片を拾い上げた。
材質は木と石のようだ。
山からはまだ大分距離がある。
塚がこの先に一つ立っていたはずだ。山と街の境界との中間付近にそれは建てられていた。
この場所で獄門が放たれていたのだろうか。
辺りは平地ではなく、丘陵が遠くの方にも見える。
山へ続く道の先の両側にはさらに大きな林が広がっていた。
まるで何かから逃れるようにしてこの場所にいたようにも見える。
由瑞は掴んでいた左手に力を込めて破片を砕こうとした。
かなり固く、傷んでいない。
すると――。
「触わんな」
すぐそばで声が聞こえた。
反対側の草むらの奥の方から浅黒い肌の男が出てきて、瓦礫の前に立つ三人の方は見ずに石くずの中から白い容器だけを拾い集め始めた。
由瑞はその動きを逃さないように注意した。
永崎も構えを緩めなかった。
二人はすぐに自覚したからだ、気配がまるで違っている。
それはどこか別な世界の姿のようにも見えた。
湧き出るエネルギーの源泉そのものがまるで違っているみたいだった。
由瑞は男に向かって言った。
「……何故街を襲う」
男は答えない。
ただ白い器だけを重ね集めている。
「……飲み水」
一番後ろで見ていた慶一が言った声にだけ男は手を止めた。
それを確かめたように、慶一は静かにその場を離れようとした。
「お前では勝てない」
男が言った。
慶一はそれに対して何も反応はしなかった。
二人も何も言わずにそれを見てその場を離れた。
男の背中は何もなかったかのようにまた器を拾い始めた。
野犬に与えていたのは飲み水だった。
この辺りなら少し踏み込んでいけば木の実や魚なども取れるはずだ。
この男は飲み水しか与えなかった。
強制獪転がどれほど苦しいものかはわからないが、この男はここでスキルを食らった犬たちを早く殺そうとしていたのだった。
遥か遠くに黒い雲に覆われた山の姿が見えてきた。
ジロウは後ろで去っていく黒い服の男に消えかけた記憶を戻されかけた。
母さん――。
あのときに捨てた言葉だ。
自分にできることは、もう名もわからぬ獣たちをこうして逃がすことだけだった。
死んでゆく彼らは、最初の衝撃をその器にだけは当てずに去っていった。
ジロウは、ただ彼らの残したその跡を拾い続けていた。




