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25、賊山へ

 地面に血が流れる。獣の腹が砕かれている。

 由瑞は返り血で濡れた手を川で洗った。


 指定項目「魔物型、不戦C」。

 協会が指定する魔物のうち、冒険者が討伐に赴かないようにと知らせるための危険表示だ。

 中には姿も未確認のため個体名も付いていないものも多い。


 これもその一つだ。

 犬とか門番とか彼らには呼ばれているが、正確には火属性魔法九番【陽炎(エンチャント)】を特殊な力で高めた同位改変スキル「獄門(ベリアル)」というものであり、武具の性能強化が動物の強制獪転にまで高められている。



 今回の調査は名目上はこの「不戦C」の調査ということになっている。二人のロストは一部を除き本部で止めてある。すぐに取り戻せる予定だったからだ。

 魔軍に関してはまだ情報が少なく、調査書類を作ることができない。

 「不戦C」の討伐は既に何度か行われているため、いくらかのデータが取れているが、あの山には何があるかまだわからない。



 少し前に、この「不戦C」が真夜中の市街に向かって川を飛び越えようとしたことがあった。

 獣の初めての襲来だった。


 そのときは梅子の迎撃用の【丼撃(グラビトン)】で川に落としたのだが、その後、何度か戦闘を重ねるうちにどうやら発生源はあの山であるということがわかった。


 死骸はただの魔物のものだった。

 野犬が使われているらしいのだが、その大きさから見ても同じような系統のスキルを扱う筧のものとは規模がまるで違う。

 どうやらただの魔物ではないらしい。


 あの山まで行ける冒険者も白井の登録者の中では限られていた。



 獄門撃破。

 任務はここまで。


 まだ何も知らない慶一は、全ての判断が今、由瑞に集められているということも当然知らない。


 初めての慶一に連携を取らせることはできない。

 何も知らないのだから。

 見て覚えさせるしかない。


 しかし、スキルの特性を理解したようだった。

 携帯はどうやらお守りに近いもののようだ。

 万が一のとき、そういうものが予想もしないところで本人を守るかもしれない。


 何より、この先も見てみたいと、由瑞はただ単純にそう思っていた。


 それは隣で獣を見下ろす永崎も同じであるはずだ。

 魔物だが、元は動物だ。


 いつまでもずっと死骸を見続けている慶一を見て二人はそう思った。


 獄門は、僅かに残した心がその行為を拒んでいるとき上を向く。

 目の前に定めた標的を殺したくないと、この獣は思ったからだった。

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