24、獄門
橋を渡り終えると、先頭を歩く由瑞が正面を向いたまますぐ後ろの二人に向かって言った。
「境界を出たらまず最初の仕事がある。これは俺がやる」
そう言うと、永崎が突然地面に座り、人形と向き合いながら目を閉じた。
祈りが始まった。
グンゴオアアアアア!!!!
遥か前方の平原から唸り声を上げて何かが突進してくる。
獣のようだ。とにかく馬鹿でかい、一階建ての家くらいはある。それが無秩序な動きで突っ込んでくる。
顔面は真上を向いている。土煙を上げて近づいてくる異形の光景だ。
「……詠唱、入ります」
か細い声で永崎が言うと、スキル発動の構えに入った。
遠くに見える、あの思い出――。
風属性魔法五番【天の河】。
対象一体の周囲に空白地帯を作り出す。
使用者の練度に応じてその空間の大きさも異なる。
永崎は、その標的に対して的確にそれを打ち込んでいた。
突然、焦点が定まらなくなったかのように、一直線に進んでいた獣が、辺りをのたうち回り始めた。
このように知能レベルの低いような敵に対しては非常に有効な魔法スキルだが、天の河には一つだけ欠点があり、それは電子音によって全てが解除されるというものだった。
基本的にこのような自然魔法タイプには電子音はいい影響を与えない。
由瑞が携帯を預かった理由が何となくわかった。
空白地帯との境界には何もないため、そこから抜け出されても効果は途切れる。
由瑞は慎重に間合いを詰めていった。
この獣は、理解させる間もなく不意打ちで仕留めるのが良さそうだ。
【獄門】。
ある魔軍が放った、改変火属性九番。
どうやら街の中から感じた気配は、これのようだった。
由瑞は、およそ二十メートルほどの距離で近づくのをやめ、左手の掌を獣の方へと向けた。
そのままゆっくりと構えを深くし、右腕でスキルを放った。
体術八番【仁王殺】。
遠距離による攻撃スキルだ。
由瑞は無言で練り上げた気功を敵の腹部へと打ち込んだ。
ドン――。
獣はそれを跳ね除け、我に返った勢いで突進してくる。
――危ない。
隣で焦る慶一をよそに最初からこうなるであろうことを知っていたようにそのスキルを再度、獣の腹部に命中させた。
体術八番【殴殺】。
ドバ
激しい血飛沫を上げ、獣はその場で絶命した。
「遠距離は日が悪いな……。すまなかったな永崎」
倒した相手をみながらそれだけを呟いた。
遠距離と直接の力の差を見せたかったのだろうか。
いや、そんなことより今日は戦闘はないんじゃなかったのか――。
それともこれは戦闘に入らないのか?
慶一は考えるとついて行けなくなりそうだったのでやめた。




