23、三人目
病室の前に来ると由瑞が少しだけ身なりを整えたような気がした。
まだ知り合って間もない相手だが、あの女協会長の前でさえそういう素振りは見せなかっただけに、意外な印象を受けた。
ドアをノックすると中で慶一と同い年くらいの少女が応答してドアを開けた。
「……お帰り」
「ああ、行くぞ」
それだけのやり取りの後、少女はよそ行きの格好で人形を抱えたまま由瑞の後をついていった。
慶一も遅れないように追いかけた。
三人は今朝の待ち合わせ場所の中庭のところまで来ると、少女はベンチの隣の芝生の上にちょこんと座り二人を見上げた。
それを見て由瑞もベンチに腰を下ろした。慶一も少女の向かい側の芝生に膝をついて座った。
「改めて紹介するよ。白井の中級、支援スキル持ちの永崎。入院治療中のためここに入っている。そして俺が由瑞晃。スキルは徒手格闘専門だ。今回の調査では永崎が一応リーダーということになる」
「……ながさき、かなです」
少女は人形を抱えたまま名乗ると、しばらく慶一の方を見て微笑んでいた。
「吾妻慶一です。俺も徒手格闘、になるのかな」
白い服に青いスカート、白いソックスにスニーカーを履いていた。それをできるだけ汚さないような格好で上品に座っている。膝には所々継いだり縫った跡の見える手作りと思われる人形を抱えていた。
慶一は月乃の村で暮らしているはずの朱里の姿を少しだけ思い出した。あいつもよくクマのぬいぐるみを抱いていた。
佇まいや雰囲気も朱里によく似ていると思った。
「……これから、外に出て賊山に入る。吾妻。お前、携帯は持っているか?」
「はい、使い道ありませんが」
「用がなければ俺が預かる。戦闘はないだろうが念のため。ついでに俺の登録もしておこう」
携帯は決められた文字数のメッセージ交換が遠距離で行える。
遠すぎると届かない。あとは音声通話だ。
慶一は、朱里と義一の二人としか交換登録をしていなかった。
街とその外との境界には川が流れていた。
自然の川だ。
これを境界に利用したのか、それともこの場所まで境界を引いたのか、慶一にはわからなかったが、川の向こうには何か異様な気配が漂っているのを感じた。
見た目は普通の景色だが建造物の姿は途絶え、人の気配は感じなかった。
「橋を渡って一時間ほどで賊山だ」
まるで準備をしろ、というような口調で由瑞が言った。
注意は特に何も受けていないから、行けばわかる、程度のものだよな――。
経験したことのない脅威を僅かに感じながら、慶一は平気な様子で先を行く二人の後を追って橋を渡り始めた。




