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22、人形使い

 慶一は夜の繁華街をさまよい、疲れた足で路地の奥の方にある古い建物を見つけた。

 この近くの加盟店はどこも予約客でいっぱいだった。仕方なく最後に入った宿に空いてそうな場所を尋ねた。


 外からだと宿泊施設だとわからないほど、そこは素っ気ない五階建ての建物だった。

 玄関のドアを開けると、フロントで女性が一人、出迎えてくれた。


 IDカードは身分証にもなるということを先ほどの宿で聞いていたが、受付の女性は名前と出身地だけでいいと言った。

 義一からもらった金貨を渡すと代金の釣りを紙幣に替えてくれた。安くはないがまだしばらくはこの宿にも泊まることができそうなほどだった。


 四階の部屋を案内された。

 広くはないが中はきれいだった。

 用意されていた寝衣を着て、慶一はそのまま倒れるように眠ってしまった。



 翌朝、一階に下りると受付で、今度は中年の男に携帯の所持を尋ねられた。

 この先の予定のない慶一に対してもし連泊するなら値引く代わりに携帯番号も教えてほしいとのことだった。


 男はどうやらこの宿のオーナーらしく、慶一はそれに従うことにした。



 その日は防衛街区の協会専属病院で、朝のうちに待ち合わせをすることになっていた。

 宿から一時間ほどかけ、病院の正面玄関の前まで歩いてくると、中庭のベンチに腰掛けている由瑞の姿が見えた。


 昨日の事務用の制服ではなく、厚地の黒のズボンにOD色の長袖のシャツを着ていた。

 眼鏡越しに、近寄って来る慶一のことを見上げながら由瑞は言った。


「おはよう。今日は戦闘なし、人探しだ」


 緊張感が昨日と変わらないのを見て、それを解くように今日の予定を伝えてきた。


「仕事は大体三人単位だ。二人のときもある。仕事ってのは境界外に出てやる任務のことだ。境界内は内職って呼んでる。今日はもう一人とお前を面会させるためにここに来てる。そいつが外出可能になれば仕事に出かける」


 もたれていた姿勢を起こしてベンチに掛けたまま由瑞は続けた。


「昨日は発言許されなかったからな。何か聞きたいことはあるか?」


 担当官から一通りの説明を受けてはいたが、あの状況では聞き留めるのも難しかったことを承知のように尋ねてきた。


「昨日はすみません……」


 慶一はあの後、担当官や事務員たちとのやり取りで由瑞が上級から下級に落ちたことや、深山が現在消息不明であることなども知った。


 現在、白井のギルド本部全体は魔軍の他に恒常的に現れる死兵(ゾンビ)、つまり魔兵と正体不明の敵性体の脅威も報告されており、対応にあたる冒険者が足りていないとのことだった。新たな冒険者を募ってはいるが大分神経を使っているらしい。


「説明不足だとああなるんだ、深山も悪い。まあ来てから説明するつもりだったのだろうが」


 あの後、梅子の説明で由瑞は憤りを収めたが、どうやら梅子の話の様子でも万魔殿については知らないような感じだった。

 冒険者は幼い頃から学校で何かを学ぶという経験をしなければ定型技能(プラクティス)を覚えることはできない。

 魔法スキルなら勉学を、身体スキルなら運動をして学習することでスキルへと繋げることができる。

 慶一は学校に通わず、そのどちらも経験していないため定型スキルを覚えることができないのだという。


 万魔殿については慶一が知る以前から知っていたのはどうやら義一だけのようだ。

 月乃には何か秘密があるのだろうか。


 万魔殿のことは口にしない方がよさそうだと慶一は判断した。

 話してしまったのは深山だが、今はそれどころではないようだ。何とか深山ともう一人の空丸を助けなければならない。



「そろそろ行くか」


 由瑞は立ち上がり、二階の病室を眺めながら言った。

 窓越しに手を振る少女の姿が見えた。


 人形を抱えている。


 慶一は気づかない。


 歩き出す由瑞のあとに続いて病院の入り口へと向かった。

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