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21、十番

 白井の冒険者ギルド本部の敷地内の隅に木造の離れがある。

 ギルド長の飾梅子(かざりうめこ)は庭の白樺に水をやりながら事務員からの伝令を受けていた。


「筧さま、源力切れです」


「何体できた?」


「一体に込めたようです」


「そうか、わかった」


「あと、応援は義一さまが一番早くお見えになりました」


由瑞(ゆずい)に応対させろ」


「はい……」


「どうした?」


「いえ、何でも」


 事務員が下がると、梅子は水撒きをやめてギルドの玄関の方を見た。

 義一の気配は感じなかった。



 白井ギルド支部、中央街区総本部内の一階広場。

 受付の前に一人の男が手続きのための書類を持って立っている。


「ええと、吾妻慶一さま。確かに深山さまの紹介状です。上級冒険者による推薦のため簡易審査のみでの登録となります。第二練習場で審査いたしますのでご案内しますね。少々お待ちください」


 受付の担当者がそう言うと、別の部屋から長身の男がやってきて慶一に向かって挨拶をした。


「吾妻さま、本日行う審査担当の由瑞と申します。どうぞよろしく。ご案内しますのでこちらへ」


 少し慇懃過ぎる対応にまだ慣れていないというような足取りで慶一は黙ってその男のあとについていった。


 月乃村のギルドとは随分と対応の印象が違う。手続きも複雑そうだ。改めて深山の存在感の凄さを感じた。



「月乃からだと大変だったでしょう。歩いて来られたのですか?」


「はい……」


「それはご苦労でした。IDカードが発行されれば宿泊は自由ですので、もうしばらくご辛抱下さい」


 そう言って案内された部屋には明かりもなく、他に人がいる気配もなかった。第二練習場と書かれた札だけがドアの上の方に見えた気がした。

 中にはどうやらテーブルと椅子だけが真ん中に置かれているようだった。


「吾妻さま、これよりスキルを覚えてもらいます。空箱(ブランク)と呼ばれる子どもでも数分で習得可能なスキルです。一応決まりですので」


 椅子を引く音がした、座れということらしい。


 マッチを擦る音と共に目の前に火が灯った。

 テーブルの上にろうそくが立ててあった。


 それを五分間見る。



 布陣型九番スキル「空箱(ブランク)」。

 全スキル中、最も習得が簡単なため、形だけのスキル適性審査の手段として「十番」とも呼ばれている。

 ただ、集中力を高めることで、思考を清浄化するというだけの()()()()()()だ。


 不合格者が出たことは、これまでに一度たりとも無い。



 由瑞は、ただ黙ってその発動を待った。

 今、見下ろしているこの男が、源力持ちであることは容易に想像がつく。


 数秒で片付くのは明らかだった。


 しかし、ろうそくが消えるまで、慶一のスキル感応は微塵もなかった。


 部屋が再び闇に包まれる。


 静まり返った空間に由瑞の声が響いた。



「ブランクを習得できない考えられる理由は二つ。

 習得する意思がないか、あるいは、その力がないか。

 どちらだと思います?」



「何が言いたいんだ、あんた」



 ろうそくの火によって高められた二人の源力が部屋に満ちた。



「誰だ? おまえ」


「最初からそうやれよ、胸くそ悪い」



「はあい。ストップ!」


 部屋に明かりがついた。


 事務員が部屋の明かりをつけ、中に入って呆れたように扇風機をかけた。隣には梅子が立っていた。


「ギルド長連れてきたんで、仲良くやってくださいね」


 由瑞はまるで聞いていないかのように激しく周囲を威嚇した。


「すっ込んでろ」


 内界から外界に向くと壁が割れたりする。事務員は必死に静めようとするが由瑞は眼鏡越しに慶一を見下ろしたまま動かない。


「何企んでんだ、今不審者相手にする余裕はないんだよ」


 返すわけにはいかないというような勢いで胸ぐらを掴み上げる。


 場力は由瑞の元にあった。この先、覆ることもなさそうだった。




「――(オン)


 梅子が体を少し揺らせたように見えた。しかし実際揺れたのは気配だ。


 ドズン――。


「ぐっ」


 由瑞と慶一がテーブルと椅子を打ち破り床に突っ伏した。

 まるで上から何かに叩きつけられたかのようにも見えた。


「組織の長の前で何やってんの?」


 出される声は若い女のものだ。


「申し訳ありません」


 頭を床に擦りつけながら言った。まだ起き上がらせてもらえないようだった。慶一も身を起こせない。


「二人とも下級ね」


「……はい」



 この日、下級冒険者二名の名が新しく登録名簿に記された。


「よろしくお願いします」


 ――何なんだこいつは。


 歳は深山と同じくらいに見えるが、目の前で頭を下げる由瑞に慶一は対応に困った。


「もう一人加わりますからね」


 担当官がそう言っても由瑞は頭を上げない。

 嫌疑が晴れ、疑ったことへの謝罪のようだが、来て早々この男と共に指定項目の調査隊に入れられてしまった。


 歩き通しだったので早く休みたかった。


 義一に路銀をもらってあの後すぐに深山のあとを追った。

 お前はこの村ではやることない――、深山にそう言われた。



 深山に遅れること二日。

 この日、本部にはちょうど二人の任務失敗の報が届けられたばかりのことだった。


 調査は翌日行われるらしい。

 夜になり、慶一は街への往来が自由になった。


 中央街ではIDカードで宿代だけはタダのようだった。

 とりあえず協会加盟の宿を探すため、慶一は夜の街をまた歩き始めた。

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