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外伝2、賭け

 館は広い三階建ての建物だった。玄関から中へ入っていく。

 周りには高価な置き物や調度品が並んでいる。壁に龍と虎の絵が飾ってある。ショッキングな色使いで趣味が悪い。バンビ教ゆかりの品はどこにも見当たらない。信仰心は欠片もないようだ。

 広い居間には豪華な家具が並んでおり、部屋の隅に水晶が飾ってある。サイドテーブルの上には飲みかけのコーヒーカップと本が伏せてあった。「返り血としゃれこうべ」と書いてある。小説のようだ。


 突然物音が聞こえてきた。上の階だ。足音の様だ。二階へと上がっていく。

 どうやら二階の書斎に遺六はいるらしい。書斎へ入ると本棚が立ちはだかった。大きな本棚が正面にあり、その向こうに遺六は居るようだ。

 部屋の壁に写真が掛けてあった。崖から落ちた母子を上から見下ろすように撮った写真だった。


 何でこの写真がある――。


 それは驚いたことに蓮真と有希を撮った写真だった。

 母親と何らかの接点があるのか?


 他の写真も酷い。

 街が火の海になっている。

 十五年前の白井の街だ。この年は遺六にとって豊作だった。井黒は武の奮闘により、bタキオンが町中に溢れ出ることはなかった。しかし、白井で悲劇が起きた。飾蒲生が隠れ住んでいるという誤った情報を受け、マキが白井を襲撃した。街中が大惨事になった。全ては遺六が手引きしたことだった。燃え盛る家に逃げ惑う人々。bタキオンを感じると遺六は酩酊状態になる。恐らく現地で堪能しながら写真を撮ったのだろう。こちらに手を伸ばす子供の写真まである。極悪だ。


 本棚を回り込むと奥が見渡せた。机の前の椅子に座っている遺六が見えた。アイマスクをして背もたれに寄り掛かり、上を向いている。眠っているようにも見えるがそうではない。上を向きながらぶつぶつとなにかを呟いている。


「おふ、おふお、燃えろ、もっと燃えろ」


 どうやら外壁を展開しているようだ。火事場を見ているのだろうか。それは森羅の町中で起きた火事の現場だった。


「ふはは、逃げられないよ。どうする」


 どうやら逃げ遅れた人を見て喜んでいるようだ。

 目の前で蓮真に見られていても気づかない。


「さあ出せ、出せ」


 炎で瓦礫が崩れる。


「おふぉおおおおおっ、出た! 気持ちいいー!! どれどんな顔かな。くはあああ、堪んね! 若返るううううう」


 な、何だこれは――。

 狂っている。

 あまりの様子に衝撃を受ける。


「び、びいタキオンだああ!! きんもちいいー!!」


 まさかこんな男だったとは。危なかった。

 悪魔の秘密を話すところだった。


「行きてえええ、そこに行きてえええよ。か、感じたいいいい、なまタキオン!!」


 椅子に座ったまま床を足で打つ。この音が響いていたようだ。


「うほおああああああっ!!」


 どくどくと、脳内麻薬が溢れている。

 誰にも真似できない、究極の快楽だ。


「うひょおおおおお!! 大好物だもんねええええっ!!」


 いつまでも続きそうだった。


「あびゃあああっ! ばろぼれげええ、うっぴょおおおお!」


 耐えきれず舌打ちをした。


「む」


 遺六が我に返る。


「蒲生……、いや、蓮真か?」


 ゆっくりと立ち上がる。


「見おったな」


 蓮真はすぐに外壁を切った。

 何なのだあれは。とても人とは思えない。


 その後、蓮真は脅しを受ける。

 母親の存在について尋ねると自分の手の内にあると言う。殺されたくなければ言うことを聞け。お前は俺の手駒だと。

 正体を知った後、定期的に人を襲うよう言いつけられた。

 蓮真はそれに従った。


 外門である程度まで人を苦しめるとbタキオンが出る。遺六の狙いはそれだった。bタキオンを感じると遺六は酔っ払う。酔うと隙ができる。普段話さないことまで話してしまう。蓮真はそこに賭けた。母親さえ取り戻せば、用はない。治安を司るギルドに引き渡す。

 しかし、母親の所在は掴めなかった。



 あるとき来客があった。

 白井の街から来たという。


 蓮真は外壁を使って外で遊ぶのをやめていた。

 ときどき、あの悪魔の動向を探る。それだけだった。

 蓮真は自分を尋ねたその男にすべてを打ち明けた。自分が病気であることも、仲間の作り方も。人間性が確かだったし親身になってくれたからだ。初めて男で仲間ができたかと思った。嬉しかった。

 一緒に悪魔に対する手立ても考えた。

 しかし、迂闊だった。


 ほんの僅かな隙に遺六にやられた。

 誰かの外門スキルでその男は殺された。遺六の手の内にはまだ何かある。

 遺六は外門を持たない。誰かがいる。


 再び一人になった。

 そして数年後、ついにその時が来る。


 走査(ラオペア)


 蓮真は考えた。国に助けを求めても悪魔のことは信じてはくれないだろう。自分一人で戦うしかない。

 外壁で見ていたから市の内実については知っていた。

 外門で市長を弱らせ、それをある場所に告げた。

 尾形冬牙は言うことに従い、配下の牙能徒に人形を付けることを許した。

 人形の量産を行う市長の経済政策に反対する牙能徒を味方につけた。

 間もなく市長が倒れる。

 それと同時に計画をスタートさせた。

 外壁と外門を空に張り込んだ。

 重圧を降らす。

 誰も原因はわからない。

 知っているのは蓮真だけだ。


 そんなとき、予想外のことが起きた。家に女がやってきた。灰論(リザルト)で見慣れない光を見つけて来たらしい。牙能徒の団員だった。牙能徒には申し訳ないがbタキオンを出す元になってもらう予定だった。説得に応じずに背中を向けて黙っていると、今度は団長だという男を連れてきた。今すぐ止めるようにと迫る団長と殺し合いが始まった。強化人間(ベータ)の札を自分に貼り応戦した。実戦の経験はないが、こっちは悪魔を見ている。住んでいる世界が既に違っていた。場力で後れを取ることはなかった。短剣を持ち殺しに来た。かなり手慣れた様子だったが蓮真は黙って相手を見ていた。刺突の態勢で近づいてくる相手を、布陣八番拷問(ごうもん)でスタンさせ、両手で耳を塞がせたところに殴殺を叩き込んだ。腹部に食らった尾形冬牙はその場で悶絶した。もう一人の女には、何もしなければこのまま見逃すと言ったが、いつまでも説得をやめなかった。


 その後、様子見と言って世話を焼きに来る役場の娘に無様(ザカリテ)の札を持たせた。用が済めば元に戻すと言い、仕方なくそれまで自分も手伝うと言ってきた牙能徒の娘にもこの役目をやらせることにした。弟に自分は死んだと言い残してきたという。自身の持つスキルも蓮真が預かった。ギルドの担当官の娘も呼んだ。遺六にも脅されていたから仕方がなかった。死人が出るかもしれなかった。

 裸になって札だけを持たせた。遺六の指示だった。好意を持つお前の前でその方が絶望するからだそうだ。

 結局誰も死ぬことはなかった。ただ床に座り、泣いていた。何でこんなことをするの、そんな思いだろう。後遺症はなかった。少し経てば治る傷だった。

 もう終わったと言うと泣くのを止めた。俯いたまま涙を拭いていた。申し訳ないことをしてしまった。

 蓮真は一人ででも戦うことを決意した。

 自分がやるしかない。


 木偶野郎――。


 そんなとき、一人の男が現れた。

 挨拶に初めて耐えた。

 黒い炎を出す男。


 見上げると灰色の空が広がっていた。


 悪魔は走査(ラオペア)の結果、人間界は死の街であると受け取ったようだった。


 口女で蒲生と蓮真の外壁が交錯していたが、不思議なことにどちらも気づくことはなかった。外壁で外壁は見えないようだ。




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