13、一撃
チェーンソーは角度が大事。刈払い機は刈り直さない。
義一からそう教わった。仕事は一回で決めることが大事だと。
燃料の混合比は機械によって違う。
エンジンオイルとガソリンは働きがそれぞれ違う。
義一の氷炎混合はほとんどが源力だ。
よくお前は優しすぎると言われた。
木を切るときも草を刈るときも、一回で決める理由は草木が可哀想だからだった。
遠くで氷炎混合の発動音が聞こえた。
しかしそれはすぐに途絶えた。
たった一人で、最速で発動させたそのスキルにもまるで興味はないというように押し返した。
お前はずっと待っていたんだ。
あのときに襲われなかったのも朱里が背にいたからだ。
お前が見ていた相手は最初から俺たち二人だったんだ。
炎陣の発動音が辺りに響いた。
ディスオーダーの発動が何故難しいか。
ある場所において、それがその境界内に収まらないスキルであるためだ。
あれを外側から破壊しようとするスキルでもあるからだ。
老狼が段落を展開した。
源力と源力。
激しい爆発と衝突のあと、狼の巨体が木々をなぎ倒し、遥か後方の岩壁まで吹き飛んでいた。
爆発場所と衝突現場までの間には四枚のガラス窓が空中で破られた跡があった。
火の粉が上がっている。
それを認めるかのように、すぐそばで女性の声が聞こえた。
『スキル【改善】、回収完了。万魔殿の一つを取り返しましたよ。ご苦労さま』
狼の亡骸の上に光る球体が浮かび上がった。
そばまで歩み寄り、それを手に取る。
「改善」。
世界を改善することが可能。
淡い光の球体が慶一の手の上でふわふわ浮かんでいる。
慶一は、開いたままだった狼のその虚ろな目をそっと閉じてやった。
「なあ、あんたに聞きたいことがたくさんある。会話はできるのか?」
形のない女性の声に向かって言った。
『できます。何でもどうぞ』
慶一が木々の向こうを見ると崖下から深山が片手で這い上がってくる姿が見えた。
義一もどうやら無事のようだ。
「誰と喋ってんだよ。このうそつき野郎。お前やっぱりディスオーダー持ちじゃねえかこの」
この三人なら共有してもよさそうだと思った。
慶一は、あの夜説明から受けた内容のその先を女性の声に尋ね始めた。