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104、最後の箍

 悪魔からこの地を守る。

 奴らは走査を行った後、また深い外地の奥へと戻ったらしい。しかし、ここに人間の集落があることが知られてしまった以上、いつまた戻ってくるかもわからない。


「帰ったら、みんなに話してみよう」


「……」


「あんたはこれからどうする」


「……見張り」


「蓮真。あんたも一緒に来ないか? みんなで力を合わせたほうがいい」


「いいのか?」


「是非、一緒に来てくれ」


「……仲、間」


「……?」


「俺、人殺してる。人殺し」


「……償うためにも来てくれ」


 ずっと一人で戦ってきた。力を合わせることも、行為を咎められることも、今まで何もなかった。自分と同じかそれ以上のものが隣にいる。一緒に作戦を立てて戦う。自分が危ないときは助けが入り、態勢を立て直して加勢する。ゲームの中だけのことだと思っていたことが、実現される。平時では共に食事をしたり雑談をしたり、今までは好意を寄せてくる若い女だけだった。意思疎通は難しかった。しかし今、全てが同レベルの男たちばかりの仲間ができる。生まれて初めてのことだった。絶望的な孤独との戦い。そんな男の未来に光が差した。

 蓮真は父親と同じように遠隔操作しか経験がない。しかし、動きを見てもわかるように格闘のセンスはあるはずだ。生身での近接戦闘術を慶一たちから教わればいい。何より蓮真の外壁能力は灰論(リザルト)の上位互換だ。こちらの戦力も大きく増えることになる。


「歩けるか」


「大丈夫だ」


 二人で来た道を戻ろうとした、そのときだった。


 ゾォオオ


 突然、身の毛もよだつようなおぞましい場力が生まれ、周囲が包まれた。


「な、何だ!?」


「……これは」


 悪魔だ――。


 しかし、発生源は内地だ。南の方角からの圧力だ。

 あの魔物ではない。これは――。


「遺六!!」


 蓮真が叫んだ。

 遥か南方を見据え、外壁を展開した。

 飾遺六。彼との最後の戦いだ。避けることはできない。

 視界の先には奇妙な格好で構えている遺六の姿が映った。辺りは血の海だった。


 あいつ、やっぱり知っていたのか――!



 火の原典。

 それは悪魔の力を封印した書物で、飾家が代々管理していた。

 一番から十二番までを仏の名前でそれぞれカモフラージュした。悪魔はその中のどれか一体だ。遺六もそこまではわかっていた。

 悪夢の封印を解くにはいくつかの条件がある。

 十二体のうち、どれが本物かを知っていること。周囲がbタキオンで満たされていること。そして、ページを開き原典の悪魔と同じ体勢を取ること、の三つだ。


 一番から十二番までの姿で梵天にできなかったものが一つだけある。

 六番、亜猿(あざる)

 それを知るために蒲生を利用した。


 究極の悪魔。最凶最悪の猿の魔物。ゼットコング。


 かつて髄家の祖先である古代人たちが襲われ、手を焼いた魔物だ。

 火の民と称して二体いたうちの一体を封印した。

 一体は取り逃がした。

 しかし、蓮真が見たのは数匹の群れだった。あちらも進化しているようだ。


 遺六は慰問と称して呼ばれた老人会で行動を起こした。隠し持っていた銃で老人たちと職員を皆殺しにした。微かに息のある人間が何人かいる。辺りはbタキオンで溢れた。

 ゆっくり火の原典を出し、六番のページを開いた。

 両手をだらんと下げ、斜に構える姿絵と同じ格好をした。

 次の瞬間、凄まじいエネルギーが体の奥から湧き始めた。

 ゼットコングの降臨。

 溢れる力を場力に変えた。


 遺六はbタキオンを至上の喜びとする特殊な性癖を持っていた。

 蹂躙――。


 世界が暗黒に飲まれた。

 立っていられない――。


 禍々しい威圧に人々は屈していった。


「何て距離だ……」


 蓮真が青ざめる。

 森羅の街から遠く北のこの地まで、どれほどの距離があるかわからない。

 おそらくユグドラシル全域が射程に入ってしまっている。


 あとは狂気に任せた大量殺戮だ。

 時間の問題だ。


 古代人が手を焼いたゼットコングだ。

 ユグドラシルなら単身壊滅が可能だろう。


 まず最初に森羅が崩壊する。

 少しずつ進路を北に向けてくる。


 悪夢だ。

 誰かが止めなくてはならない。


 蓮真は、呼吸を整え、その態勢に入った。

 外門の発動だ。


 押し潰す――。


 命を懸けた遠距離攻撃が始まる。

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