103、遠い日の面影
顔は殴られた跡であざだらけだ。体も引き摺るようにして歩いてきた。
「よう、ゲームっ子。たまには外で遊ぶのもいいだろ」
慶一はエンジンをふかしながら、威嚇するように言った。ここでやめるつもりはない。これからが本番だ。しかし、蓮真にその余力はない。
「どうした、お辞儀をしろ。ゲーム再開の挨拶だろ」
蓮真は痛む体を押さえ、正面で慶一と向き合っている。もう戦えない。もうやめてくれ。
「何だつまらない、俺から行くぞ」
そのとき――。
ポーン
電子音が突然鳴った。
携帯端末だ。慶一はポケットからそれを出して、確認する。メッセージの着信だった。
送り主は、狩野朱里――。
朱里!?
慌てて確認をする。間違いない、朱里だ。
内容は――。
“そのままでいいよ”
そのままでいいよ。それだけだった。
朱里――。
しかし、一瞬気が緩んだが、喜んだのも束の間。送信日時を見ると十二月三十日、となっていた。
去年の暮。
朱里はまだ元気だった頃だ。
何てことだ。
やっぱり朱里は。
喜びから再び絶望の底へ叩き落された気分だった。
もう終わりなんだ。
やっぱり朱里はもう。
そのままでいいよ――。
朱里からの最後のメッセージを何度も読み直す。
そのままでいいか。そうだな、俺はこのままでいい――。
慶一は重い現実を受け止め、蓮真と向き合った。
「何か言いたいことはあるか」
姿を現したのはそのためだろう。慶一は穏やかに尋ねた。
「あ、おれ、あ、ぼ、僕。俺……」
突然声をかけられた蓮真はろれつが回らず喋れない。
「普通でいいよ」
慶一がさらに穏やかに告げる。少し力の抜けた蓮真が話し始めた。
「た、戦えるか、あれと」
「あれと? あれって言うのは何だ?」
「あ、悪魔」
「落ち着いてゆっくり話してくれ。わからないことだらけだ」
蓮真は気持ちを静め、ゆっくりと説明し始めた。