外伝、アウトサイダー
森羅国領、鳴口村。
十四歳になるニアは学校への道を歩いていた。黒髪の生徒が多い中、ニアは珍しい銀の髪色をしていた。
一人で歩いている。内気な性格も相まって友達はできない。それどころかクラスではいじめを受けていた。
「あ、それでは、朝の会を始めます」
「はあ? 聞こえねーよ」
「ばばあ、もっとでかい声で喋れよ」
「わははは」
クラスの中で他の誰もがやりたくない日直を押し付けられ、毎日やっていた。
「お前ら人間失格。自殺者が出たら責任取れよな」
教師も助けるどころかいじめに加わっていた。
「……ごめんなさい」
昼食の時間。教室の隅っこで一人だけで席に座っている。弁当箱を机の上に出す。ふたを開けるとお母さんの姿が思い浮かんだ。
友達もいない。お母さんが作ってくれた弁当に涙が零れそうになった。お母さんの心配そうにする姿が一番辛かった。
私は何で生まれてきたんだろう――。
毎日が辛い。
家に帰るといつものようにお母さんの手伝いをする。お母さんも友達がいないことは気づいているはずだ。外に遊びに行くこともなければ家に連れてくることもない。
夕食の支度をして二人で食事をする。
学校も辛いけど家にいる時間も憂鬱だった。明日になればまた行かなければならない。
目の前が真っ暗だった。
そんなとき、追い打ちをかけるような出来事が起こる。
台所で仕事をしているお母さんの真上に顔面が現れたのだ。
お母さんが床に倒れた音で異変に気づく。
「お母さん!?」
「ニア……。お母さんの部屋の引き出しを、見て……」
そこには自分がいなくなった後の拠り所としての場所が書いてあった。これを持って蒼い庭園を頼ってほしいという内容の手紙だった。
いつかこうなることもニアの母は知っていたのだ。
「お母さん! 死なないで」
段々息もか細くなっていった。
やがて母は静かに息を引き取った。
「お母さん!!」
どうして――。
辛い。悲しい。
――死にたい。
自分の中の本音を心の中で呟いた。
「待って!!」
消え去ろうとする顔面に声を放った。
「私にもやって!」
「……」
顔面は今度はニアの上に移った。
しかし、凝視はしない。
「……オマエハ、生キロ」
「もういいの。もう、消えたい」
「……」
「お母さんのところに。お願い」
「ワカッタ」
そう言うと顔面は凝視に入った。
命の落ちる瞬間、少しだけ優しい顔になった。
飾蒲生はこうして連携の取れていない一人ぼっちの御力使いばかりを狙っていった。
外壁に身を委ねて死ぬ。それがこの世界で最も安楽な死に方の一つだった。大地に向かってただ降りていくように死ぬ。
飾蒲生は二人分の御力と共にこの世の理不尽を一つ知った。
何のために生まれてきたのか。
そこまで追い詰める悪意が至るところに跋扈している。
御力がどこまでも高まれば何かが変わるかもしれない。
天体観測まであと僅かというところだった。